拙著『<第3版>これならわかる金融経済』(大月書店、2013年9月)のご紹介
第3版の本書は,リーマン・ショックや異次元の金融緩和政策などの新しい事態とデータを盛り込んで再構成しました.
「現代ほど,マネーが,経済や社会のためでなく,むしろマネー自身のために,自身がより大きく増殖するために,使用されるような時代があっただろうか.
そもそも経済(economy)とは,eco-(家の)-nomy(管理),すなわち,家の切り盛りや暮らしを意味していた.マネーは,あたかも身体を流れる血液のように,国民経済や地域経済のすみずみにまで流れることで,モノづくりや暮らしを支えてきた,といってよい.
だが,世紀末のバブルの時代,マネーは,より有利な利殖先をもとめて,経済やモノづくりの現場からはなれ,株式や土地の売買に向かい,その売買差益を追求した.世界に目をやると,巨大マネーが,より有利な利殖先をもとめ,国境を越えて,自由に移動している.地球をつつむコンピュータのネットワークは,飽くことなく自己増殖をくりかえす巨大マネーに,地球的な規模の運動と,ビジネスの舞台装置を提供している.その結果、各国においてバブルの膨張と崩壊が繰り返され、金融危機・財政危機・経済危機が表面化している。
はたして,いま時代が問いかけているのは,富の象徴としてのマネーを無制限に追い求めることだろうか.また金融産業にしても,マネーの効率的な自己増殖のノウハウやシステムを最優先させることなのだろうか.おそらく,そうではない.現代社会のニーズは,国民経済や地域経済の安定と発展に目を向け,安心できる暮らしの視点から,マネーや金融産業のあり方,金融経済システムや経済社会のあり方を解明することであるにちがいない.
というのも、地球上では人類の40%にあたる28億人の人々が1日2ドル未満の生活を強いられ、先進国でも経済格差が拡大・固定化し、生活の不安や貧困問題が深刻化している。世界でも、日本国内でも、マネーが生活を豊かにするために使われているとはいえない。
そのようなわけで,本書は,日々の身近なニュースや経済のしくみに焦点を当て,それらがよく理解できるように,必要とされる金融や経済の基礎知識を提供する( Part 1).さらに,そうした基礎知識を「死んだ知識」に閉じこめないで,「生きた知識」として躍動させ,さまざまな経済問題を自主的に解明できるように,主要なサンプルを提供する(Part 2).
周知のように,わが国は,規模のうえでは,まぎれもなく経済大国であるが,市民生活の豊かさとなると,むしろ「生活大国」ならぬ「貧困・格差」大国化する事情があるようだ.改善されつつあるとはいえ,不透明で不公正と評価される日本型金融経済システムや経済社会のあり方は,先進国の一般的な基準からみて,多くの問題点も指摘されている.暮らしや経済の安定・充実となると,解決を急がれる問題点が山積しているようである.
本書では,充実した市民生活や市場のルールをめぐる国際社会(欧米)のよき先行事例に学ぶことで,問題解決のあり方やその方向も検討する.さまざまな経済リスクに満ちた社会で暮らす現代人にとって,金融や経済についての見識を持つことは,安全で賢い市民生活を送るための「生活の知恵」であり,不可欠の教養でもある,といってよい. 揺れ動く生きた経済現象を分析し,その特徴や問題点を解明するのは,もとより容易でない.本書は,内外の新聞・雑誌などから新しい現象や事実関係を採集し,そこに掲載された各種の調査・分析結果・論調も取り入れた.複雑化し,変転する経済現象とシステムをわかりやすく解き明かすには,日常的に誰もが目にする一般的な事実に依拠する必要があったからである.
従来からの類書や研究書も参考にしたが,一般的なテキストとしての性格から,出典の詳細な紹介は省略し,巻末に,一括して参考文献として掲げることで感謝の印とし,お許しをもとめる所存である. 2013年8月」
ーー拙著『[第3版]これならわかる金融経済ーグローバル時代の日本経済入門ー』(大月書店、2013年9月「はじめに」)より。
目 次
Prologue——金融ビジネス最前線を探る
Chapter1. 金融のプレーヤーとマネー
Chapter 2. 銀行の基本業務と金融政策
Chapter 3. 多様化し,膨張する証券市場
Chapter 4. サイバー空間・金融市場の解明
Chapter 5. グローバル経済のフレームワーク
Chapter 6. 欧米の金融行政から学ぶ
Chapter 7. 金融のビッグバンとグローバル化
Chapter 8. 現代日本の金融政策を読み解く
Chapter 9. 膨張する国債市場と増大するリスク
Chapter 10. グローバル経済と円・ドル問題
Epilogue——ゆとり社会のセーフティネット
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