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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

経済社会評論集

5 .アメリカ経済を直撃したテロ

はじめに

 21世紀の最初の1年が終わり、新しい年がはじまりました。それにしても、21世紀の幕開けは、なんとあわただしく、ショッキングな出来事がたてつづいたことでしょう。
 過ぎ去った激動の一年を振り返り、21世紀の残された将来への教訓とすることが、とても重要であるようにおもわれます。昨年暮れに、たとえ何回忘年会をやったにしても、決して忘れてはならない事件だといえるのではないでしょうか。
 その筆頭は、いうまでもなくアメリカの貿易センタービルの倒壊に象徴される同時多発テロ事件と軍事大国アメリカ・ブッシュ政権の即座の報復戦でしょう。
 一体どうしてこんなことになったのか、という驚きと疑問が世界の人々の脳裏をよぎったに違いありません。この点は、筆者も、しかり、です。
 そこで、以下、経済学の窓から世界を見る「エコノミック・ウインドウズ」の視点から、こうした出来事について検討してみようとおもいます。テロがアメリカ経済の心臓部に向けられたことは、やはり経済学徒としても見過ごしにできないからです。
 日本の経済学者はテロと報復戦に反対する
 筆者も所属する経済理論学会(会員数ほぼ1000名)は、「無差別テロと軍事行動との悪循環を断ちきる理性的行動を―日本の経済学者は世界の 人々と諸国家に訴える―2001年10月8日」との声明を発表しました。緊急の対応だったため、全国総会には間に合わず有志の声明となりましたが、それで もテロ発生からほぼ1ヶ月たらずで半数近い409名の会員がこの声明に賛同し、署名しました。
 賛同者から署名を集める行動に取り組み初めてからわずか2~3週間ほどで、北海道から沖縄まで、全国各地の大学の経済学関係の教官から数百の署名が届い たのは、問題の深刻さはもとより、インターネットという便利な情報通信網があったからですが、もちろん筆者もこの学会の署名欄の末席に名前を連ねました。 その理由は、以下の声明文の通りです。

テロは人類への反逆、国際法廷で厳正に処罰

 「多数の一般市民を殺傷することを手段として目的を達成しようとする無差別テロを私たちはけっして認めることができません。このようなテロ は、社会を形成して生活している人類の総体にたいする反人道的な行為、国際的な犯罪行為であり、計画者および実行者は厳しく罰せられなければなりません。 この種の犯罪を裁き罰する国際的な仕組みは国連憲章と国際法にもとづく国際法廷として存在しており、これまですでに機能しています。私たちはいま国際社会 に、今回のテロ行為の計画者、組織者、実行者、支援者を、国際法にもとづく手続きに従って訴追し、国際法廷で裁き、厳正に処罰することを求めます。」
   アメリカの報復戦争はテロとの悪循環、即時中止
 「ふり返れば、この10年間にかぎってみても、アメリカとその同盟国がその武力行使によって、パレスチナとイラクで、またスーダンや旧ユーゴ スラヴィアで、きわめて多くの非戦闘員ないし一般市民の生命を奪ってきたこと、そしてそれが民衆の反米感情を増大させ、無差別テロのための自爆を最高の救 済だとするような狂信的意識を育んできたことは否定しがたい事実です。根源的な原因がどこにあったかを問わないとしても、ここには明らかに、軍事行動と無 差別テロとの悪しき循環があります。そして今回の無差別テロがこのような悪循環の一環をなすものであることもまた明らかです。
 あの恐るべき無差別テロが私たちに提起しているのは、このような悪循環を断つための、世界の諸個人と諸国家との理性的な行動ではないでしょうか。私たち はアメリカ合衆国にたいしても世界中の人々にたいしても、「報復戦争」やそれにたいする喝采ではなくて、いまこそパレスチナで、中東で、ユーゴスラヴィア で、そして世界中でこうした悪循環を断つための人々の、そして諸国家の理性的行動を求めます。こうした立場から、私たちは、いまアメリカ合衆国政府が進め ている「報復戦争」とその実行のための戦時体制の構築とに断固反対します。」

日本政府は軍事行動に荷担せず、平和的対処を

 「日本国の小泉首相は、NATO諸国に先駆けていちはやくアメリカ合衆国政府の「報復戦争」政策に支持を表明し、日本の政府与党は、大規模テ ロの恐ろしさを目前にした日本の国民のとまどいを利用して、この機会に、日本国憲法の平和条項をさらに乱暴に踏みにじる自衛隊の軍事出動を可能にしようと して、周辺事態法その他の有事立法の整備を図ることを目論んでいます。私たちは日本国政府に、アメリカ合衆国政府の「報復戦争」に荷担し支援するのではな く、いまこそ、軍事行動ではない理性的な振る舞いによって軍事攻撃と無差別テロとの恐るべき悪循環を断ち切るべきことを世界の民衆と国家とに訴え、また自 らの行動によってその範を示すことを求めます。またいまこそ経済大国の日本が、病院や学校を建設し医師や教育者や農業技術者を派遣するなど、無差別テロの 温床となっている世界各地の民衆が置かれている非人間的状況を緩和するために最大限の方策を取るべきときであり、日本政府がそのような方向で行動すること を求めます。」

無差別テロの土壌・世界の経済格差をなくそう

 「私たちは、無差別テロの土壌となる、世界の極貧状態と非人間的な生活とを、先進国の膨大な富を生かして克服していくことができるような世界 的システムをつくりあげなければならないと考えています。私たちは世界中の、とりわけ先進国の、働く諸個人に、そのための国際的な行動と連帯とを呼びかけ ます。
 私たちはいまあらためて、国家間の戦争や無差別テロが生じる社会的な基盤をなくすためにできるだけの努力をしようと決意しています。」(以上、小見出しは筆者)。

拡大し続ける世界の経済格差ムテロの背景

 今回のテロは、軍事大国アメリカを象徴する国防省(ペンタゴン)を攻撃しただけでなく、世界経済に君臨するアメリカ資本主義の心臓部にあたるニューヨークのマンハッタン島(世界貿易センタービル・ウォール街)に向けられていました。
 たしかにテロ行為は厳しく糾弾されなければなりませんが、その背景には、先進諸国と開発途上国との間で、想像を超えた富の偏在があることも見過ごせません。
 世界の人口約57億人のうち、その八割は開発途上国で生活しています。ところが、世界の所得でみると、先進諸国が所得の八割を独占しています。
  この所得格差はますます拡大してきています。国連開発計画(UNDP)の「人間開発報告書1994」によれば、世界の最富裕層2割と最貧困層2割の所得割 合は、1960年の時点では30:1だったのに、1991年には61:1にまで拡大してきています。世界人口の半分は、1日2ドル未満(240円ほど)で の生活を余儀なくされています。戦後、アメリカを頂点にした資本主義経済の発展はめざましいものでした。だが、この経済は、発展すればするほど内外の経済 格差を拡大する経済システムでもありました。
 こうした所得格差の社会経済的帰結は、開発途上国で、毎年1300万人から1800万人が、飢餓、栄養失調、貧困が原因で死亡している現状によって示されています。世界銀行の報告書によれば、1日に4万人以上の餓死者が発生しています。
 先進国では、どれだけたくさん食べられるかという飽食競争がテレビをにぎわせている一方で、地球上では、飢餓、栄養失調、といった「絶対的な貧困」のも とにおかれている圧倒邸多数の人々がいます。地球上の富を集中するアメリカと先進諸国は、公的な対外援助(ODA・政府開発援助)などによって、開発途上 国の「飢餓、栄養失調、貧困」からの脱出を助け、経済発展の基盤整備をしてやる必要があります。この点では、日本は、アメリカを抜き、世界最大の対外援助 国です。
 アメリカは、報復戦に60億ドルもの大金を費やしていますが、その10分の1の6億ドルの医薬品や食糧援助で何百万人もの尊い人命が救われるようです。 アメリカが報復戦で空爆をはじめたとき、イギリス経済紙のフィナンシャル・タイムズは、アフガニスタンの国土面積と同じほどの空を覆うミサイルの束が落下 しているイラストを掲げて、「世界でもっとも豊かな国が、もっとも貧しい国を爆撃するのを目撃するのは、心を乱す。」と報じました。空爆の直接の被害者が 数千人にのぼるだけでなく、すでに100万人を超える難民を生み出し、「絶対的な貧困」状態を強いています。

テロによって加速された経済不況

 すでにテロ発生前から、アメリカのバブル経済は崩壊の兆しを見せていましたが、テロは経済不況を加速させたようです。テロの直接の被害は、航 空業界、ホテル業界、さらに保険業界、各種小売業界などで、しめて1000億ドル(12兆円)ほどの経済損失が見込まれているようです。
 ウォール街の象徴・ニューヨーク証券取引所の株取引は、テロ後1週間ほど中断され、再会されると同時に、アメリカの株価(ダウ工業株平均)は大暴落をしました。
  いま、アメリカは報復戦で国民の世論を結束させているようですが、足下の経済では、株式バブルの崩壊、リストラと大量解雇、売れ行き不振と企業倒産、深刻 化する不良債権問題や個人破産、貧富の格差の一層の拡大、先行き不安など、経済不況の足音が高まっています。巨大マーケットのアメリカに依存した世界各国 でも、対米輸出の激減などにより、経済x停滞を余儀なくされ、世界不況の影が出はじめました。すでに、南米や東南アジア諸国は、こうした影響を受けはじめ ています。

『群馬評論』第89号、群馬評論社、2002年1月、掲載。
(e-mail : yamachan@edu.gunma-u.ac.jp) やまだ ひろふみ・群馬大学教育学部教授

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