60. 日銀の金融政策修正〜二枚舌で引き締めに踏み出す〜
2018年7月30、31日の日銀政策委員会・金融政策決定会合で決定した金融政策の特徴は、一言で言えば、日銀が「異次元の金融緩和」の頓挫(とんざ)を認めたものであり、本音と建て前を巧妙に使い分け、金融市場の異常性と預貸金利ざやの縮小で被る金融機関の不利益とを一定程度解消し、事実上の金融引き締めに踏み出したものと思います。
日銀が今回新しく打ち出したのは3点です。
第一に、長期金利の誘導幅を上下0・2%程度に広げたこと。超低金利で銀行の貸出金利が低下し、経営が悪化しているので、業界の要望に沿って、金利を上げることを日銀が認めざるをえなくなったということです。
第二に、マイナス金利を適用する日銀当座預金の残高を10兆円程度から5兆円程度に下げました。マイナス金利は0・1%なので、銀行の負担は50億円くらいに半減します。
第三に、年間6兆円購入している株価指数連動型上場投資信託(ETF)のうち日経平均連動型を減らし、TOPIX連動型を増やしたこと。日銀が大企業の大株主になって株式の価格形成をゆがめているとの批判が強いので、構成する会社の数が東証一部上場全社のTOPIX型を増やし、価格形成をゆがめていないとのメッセージを送りました。
この三つは金融緩和の縮小を意味します。しかし、政策のタイトルは「強力な金融緩和継続」です。実質的に引き締めに入ったのにより強力な緩和をやるといいます。
日銀としては当初、2年で終わるはずだった異常に大規模な金融緩和が5年以上続き、物価上昇率は目標の2%どころか0・8%です。日銀の展望リポートでは18年度、19年度、20年度とも物価の見通しは下方修正です。完全に政策は破綻しています。
なのに、なぜ「強力な金融緩和継続」と表現するのでしょうか。それは、安倍政権への忖度からでしょう。言葉面で「強力な緩和」を打ち出しておけば、具体的にどんな政策をとっても政府と日銀が一体ということになります。
だが、ことここにいたって、政策の実践面では金融引き締めに足を掛けざるを得なくなりました。本音は欧米と歩調を揃えて引き締めに入らざるを得ないが、そんなことはないと、一種の二枚舌を使っているのは、推進してきた国債や株式の官製バブルの崩壊を回避したいという恐怖心にある、というのが今回の決定だと思います。