I TOP I site policy I contact I 印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

68. 10月消費税10%増税はなぜストップ!なのか

 

   

 1│消費不況下の消費税増税は、

  │経済社会と生活を破壊する

   

   

 ■現在の経済状況は、国内景気も外需も、10%への引き上げ を再延期した前回一六年六月より深刻

 そもそも論ですが、消費税は消費にかかる税金です。消費は、私たちがオギャーと生まれて亡くなるまで、つまりゆりかごから墓場まで、営々と生きているかぎり続ける経済活動です。その経済活動は衣食住が基本ですが、国民一人ひとりにとってその衣食住の状態が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」に足りるものであるかどうかを、日本国憲法は「生存権」(第二十五条)として絶えず問いかけています。

 ですから、人間が生まれてから死ぬまで続ける経済活動=消費にたいして国家が大きく税金をかけることは、国民の「生存権」をおびやかす側面を持っているのです。消費税は、商売で儲かったから払うというのとはまったく異質の税金です。生きていくという経済活動、生存(生活)に直結するところで税金をとるという点に、他のさまざまな税金との大きな違いがあることを、まず押さえておかなければなりません。

 同時に、消費生活に直結した中小零細企業でも、非常に広範囲のみなさんにどっしりと経済的負担や事務処理等々の負担がかかる、そこにも消費税の特徴があります。

 なぜ、十月の消費税増税はストップなのか。消費税増税は、実は二回ほど先延ばししてきました。一回目が一四年十一月、二回目が一六年六月ですが、今回は前回一六年六月に先延ばししたときよりも経済情勢は深刻です。

 端的に言えば、世界経済、とくに中国とアメリカは、トランプ大統領が仕掛けた貿易戦争もかなり深刻に影響しているのですが、経済成長がかつてよりも大きく落ち込みました。世界経済の動向については、いろいろな機関がシミュレーションを出していますが、当初の予測よりもどんどんと引き下げられています。これから本格的な不況局面を迎え、かなり経済的な危機が広がるというのが、大方の見方なのです。

 そうしたなかで一〇%への増税ですから、前回の先延ばしの時点よりも環境は非常に深刻です。

 家計で見ると、一九九七年をピークに所得がどんどん減ってきています。その一方で、私たちの社会保障や税金での負担がどんどん重くなってきています。租税負担と社会保障負担を合わせた国民負担率(対GDP比)は、安倍政権下で戦後ピークの水準になり、四三%にまで達しています。

 国民負担が非常に大変なところに、さらに一〇%への増税は間違いなく国民生活を破壊し、いまでも深刻な消費不況をさらに深刻なものにしていく、そういう破壊的な影響が発生します。

 ですから、この十月の消費税一〇%への増税はなんとしてもストップさせることは、日本経済の傷みの深刻化を少しでも阻止するうえでも、大きな意味のある運動と言えるでしょう。

 ■トランプ発米中貿易戦争と英国のEU離脱問題は、世界経済の落ち込みと不況を誘発する

 世界経済の落ち込みと不安定化の先行きは、イギリスのEU離脱問題の推移もあり、ここ一、二カ月はとくに予断を許さない事態になります。

 トランプ大統領の貿易戦争で、アメリカの国民はすでに十兆円くらいの負担増を強いられています。関税を上げるということは、アメリカ国民にとっては税金を転嫁されて高くなった商品を買うことになります。この事情は、中国の国民にとっても同じです。中国はいま世界の工場ですから、そこで生産された製品が世界中に売られていきます。とくに日本は大変多くの企業が中国に拠点を持っていますから、それらの製品はすべて関税分を転嫁されて、米中だけでなく他のいろいろな国の国民も、税金が転嫁された分高く買わされます。すでに日本でも、輸入品の価格が上がってきています。

 とくに、日本の場合は他の先進国と違い、カロリーベースの食糧自給率は約四割しかなく、多くを輸入に依存しますから、もろに食品が値上げされるなかでさらに一〇%の消費税というのは、本当に国民生活を破壊するのです。

 ■日銀と年金積立金で株価を二倍にした安倍政権は、大企業と内外投資家の資産を倍増させた

 日銀と年金積立金を使って株価を二倍にしたのがアベノミクス、安倍政権です。この会場には年金も含めた生活をしていらっしゃる方が多々見受けられますが、ほとんどの方にとって、株高の恩恵は無縁のものと言えます。

 しかし、株式に投資するほどの余裕のある階層は、ざっくり言って財産が二倍になりました。株式時価総額は、安倍政権発足の前年には三百兆円でしたが、数年で六百兆円になりました。つまり、一千万円で株を買って持っていた人は、安倍政権によって二千万円にまでふくらませてもらったわけです。

 それで、その値上がり益の一部で二千万円超の高級外車やワンパッケージで一千万円の豪華海外旅行などの高額商品がすごく買われているのです。

 純金融資産だけで一億円以上を保有している階層を富裕層と言います、五億円以上は超富裕層です。この富裕層、超富裕層が百三十万世帯あります。日本全体の五千三百万世帯のうちの、わずか二%強です。この二%強の人たちが持っている不動産を除いた純金融資産は約三百兆円(野村総合研究所調べ)です。

 富裕層とともに、大量の株をもっているのは大企業・金融機関などです。この富裕層と大企業にとって、第二次安倍政権=アベノミクスは、自分たちの金融資産を短期間に二倍に膨らませてくれた、願ってもない政権なのです。

 安倍政権はどうやって株価をつり上げたか。

 まず日銀に、大量の株を購入させました。さらに、国民が現役のときからコツコツと積み立ててきた公的年金にも株を買わせました。中央銀行に膨大な株を買わせたり、公的年金の積立金に株を買わせるというのは、世界でもあまり例がありません。とくに公的年金の運用は安全第一が基本であるべきなのに、昨年来の株価の値下がりで、最近では十四〜五兆円の損失を出しています。これは、非常に深刻です。

 このように、安倍政権・アベノミクスは富裕層と大企業に大儲けさせましたが、その一方で格差と貧困の広がりはいっそう深刻化しました。その政権がさらにいま、国民いじめともいうべき消費税率一〇%を押しつけようとしているわけですから、これは何としてもストップさせなければなりません。

   

  │この三十年間の消費税増税は、法人

 2│税減税の減収分を補ってきた歴史

  │

   

 ■消費税の税収累計額三百七十二兆円の八割が、法人税減税累計額二百九十一兆円の穴埋めに充用された

 消費税はご存じのように一九八九年(平成元年)に新しく導入された税金ですが、この三十年間の累計で三百七十二兆円ほどが国庫に入りました。消費税を導入した翌年の九〇年に法人税の減税が始まりましたが、九〇年からずっとこの間、二十九年間に減税された法人税は約二百九十一兆円です。

 消費税の導入で国庫に巨額の新財源が出現したにもかかわらず、そのほぼ八割は法人税の減税分に充用されたことになります。法人税減税を実行するために消費税の導入と税率アップがあった、と評価することもできるわけです。

 消費税導入前の一九八八年度の一般会計歳入で見ると、法人税収はその二十四%を占め、代表的な財源でした。でも、八九年度に消費税が導入されると、法人税はどんどん減額されました。昨年度で見ると、法人税収はわずか十三%へと半減する一方、消費税収が十八%を占め、法人税収を大幅に上回って逆転しています。いまや消費税は法人税に代わって一般会計の主要財源にされてしまいました。

 ■消費増税反対五四%・賛成四〇%の意味=「財政も若者も大変だから少しは負担しよう」

 しかし、こうした消費税導入・税率アップと法人税減税の関係は、広く国民に知れ渡っているとは言えません。そのことが、消費税増税には反対だけど(五四%)、国の財政も若い人も大変だから、せめて少しは負担増も(四〇%)、という世論調査(「産経新聞」)の数字になってあらわれていると言えます。

 消費税の税率を一〇%にアップすると、標準世帯で新たに年四万円ほどの負担増になりますが、〝増税になるけれど、日々の暮らしのなかでコツコツと、なんとか負担していけば〟――残念ながら、国民の「四〇%」には、世論誘導が功を奏している状況もあります。

 国家が成立して以降、税金のとり方の要諦というのは不変です。自分の毛を刈り取られている羊が、いつ刈り取られたかわからない、そういう税のとり方がベストだとされています。

 どうすれば、国民をおとなしい羊にできるのか、徴税のプロは絶えずそのことに腐心していて、群馬でも関東財務局の出先機関による学生や青年むけの納税の啓蒙活動がおこなわれていますし、小学生、中学生を対象にした作文コンクールなどもあります。税金を払うことがどんなに国を助けることになるかなど、為政者にとって都合のいい一面的な考えの浸透が図られてきました。

 初めにお話ししたような消費税の本質的な性格であるとか、法人税減税のカバーとされてきたことなどについて、メディアの論評や報道がもっと強められれば、消費税増税への国民的な反対運動も、もっと大きく広がるはずです。二〇一四年の消費税増税によって日本の消費不況は一段と深刻化し、現在に至っても回復できないでいるわけで、消費税増税と経済がいかに深く結びついているか、国民の生存権をいかに破壊するかなど、もっと多くの人びとに広めていくとりくみが求められていると思います。

 ■現在は所得税や法人税などにも依存している社会保障関係費を、消費税だけで賄うというウソ

 消費税を増税するための理由として、社会保障関係の費用を消費税で賄うためということが、政権側によって、またメディアによっても、言われています。

 いま社会保障関係費は、一般会計予算の三四兆円(三四%)で、国家予算の最大費目になっています。日本は超高齢社会が歴史上かつてないスピードで到来した国ですから、これは当然のことなのです。ヨーロッパには社会保障関係費が四割以上という国が珍しくありませんが、日本はそれらの国以上の超高齢社会になっていますから、社会保障関係費が四割に達するのは、ある意味では自然の流れのはずです。

 ところが、政府や大企業、経団連には、その規模と伸びを抑制したいという衝動が絶えずあります。そのために、一つは、みんなで助け合おう、絆を持とうと、「自立自助」・「相互扶助」を強調することで、社会保障理念の形骸化を図ってきました。もう一つが、消費税で社会保障関係費を賄う、という議論です。この二つによって、消費税率を多少アップしても、社会保障のコストは私たち国民が分かち合って負担しなければという、先に触れた「四〇%」の税率アップ容認論となっています。

 一九八〇年代の半ばあたりから、「自己責任論」という議論が大変盛んになりました。アメリカのレーガノミクス、イギリスのサッチャーイズム、日本の中曽根「行革」がそれで、「新自由主義」として括ることができるでしょう。ここから資本主義経済全体の野蛮な変質が始まりました。「自己責任」というのは実に都合のいい言葉です。すべてが個人の「責任」ですから、組織(国家や企業)は責任を負う必要がない。政府や官僚システム、企業システムはすべて、「責任」から解放され、「責任」は国民一人ひとりにあるという論理ですから、社会は何も改善されず、権力や既得権はそのまま、ということになります。

 〝消費税を社会保障の財源とするために、私たちも負担を引き受けなければならない〟というのは、あきらかに新自由主義的なメッセージです。しかし、現在の社会保障関係費の財源から所得税や法人税をはずし、消費税だけで財源を賄うとしたら、消費税の税率は一六%になります。一九年度予算で約三十四兆円ですから、現在消費税率八%で国庫に十七兆円入っていますから、三十四兆円というのはちょうどその倍で、税率も八%の倍となります。

 つまり、税率を一六%にすれば、社会保障関係費はすべて消費税で賄うことができます。その代わり、これまで社会保障関係費にまわされてきた法人税や所得税、酒税その他の税金はすべて別の使途--例えば最近激増しているのは防衛関係費--に回されます。そう考えると、社会保障のために消費税をという論理がいかに危険であるか、日本国民にいかに高負担を強いるものかがわかると思います。

 実際、日本経団連は早い段階から、法人税をもっと下げたい、消費税は二〇二一年までに一九%へ引き上げろと、はっきり言っています(提言「成長戦略の実行と財政再建の断行を求める」、二〇一二年五月)。大企業・財界の本音は、消費税増税によって法人税はゼロに近いところへ持っていきたい、ということですが、これはあまりにも身勝手な議論で、国民の生活に対する横暴な攻撃です。

 経団連のこうした本音に、テレビの討論番組などでも、〝日本の大企業は国民に甘えすぎている〟と指摘する解説者もいましたが、〝国民が大企業・財界を甘やかしている〟という言い方もできるでしょう。

 ここはやはり、主権在民、主権者の国民として、私たちがもっと声を上げなければなりません。正確なデータや数字を踏まえて、日本経済と国民生活の来し方行く末について、積極的に主張することが、とても大事な時代になっていると言えます。

   

  │消費税増税以外の財源はある!

 3│大企業の埋蔵金四百五十兆円に増税

  │

   

 ■一方に一千兆円の政府債務、他方に一千兆円の豊かな資産を持つ「経済大国日本」

 消費税増税をめぐって、〝増税しなくて国家財政の財源は大丈夫なのか〟という「疑問」をよく耳にします。

 端的に結論を言えば、大丈夫だということです。まったく、心配する必要はありません。財源が有り余るほどあるのが、現代日本です。

 現代日本の経済規模は二〇一〇年に中国に追い抜かれました。今や中国の経済規模は日本のほぼ三倍です(名目GDP比)。それでも日本は、世界第三位の超経済大国です。インドはすでにフランスを抜いて、GDP比で世界六位になっています。そういう歴史的な地殻変動の時代がやってきているなかでも、日本はまだまだ世界第三位の経済大国の地位を保持しています。

 この第三位の経済大国がどれほどすごいお金持ちかということを、いくつかの数字で見てみましょう。

 【内部留保金】

 資本金十億円以上の金融・保険を含む大企業の内部留保金が四百五十兆円ほどあります。内部留保金を四百五十兆円も持たせている国は、世界を探しても日本以外にはありません。これをどうやってため込んだかと言うと、三つほどのルートがあります。

 第一は、すでに見たように、法人減税がこの三十年近くで二百九十一兆円ありますが、この減税分が、ため込みに使われているわけです。

 第二は、労働者の賃金をカットしたことです。人件費を切り詰めた分を内部留保としてため込みました。正社員から非正社員に切り替えたり、賃金自体を下げました。賃金は九七年をピークにどんどん下がってきています。

 第三は、国内の設備投資を怠ってきたことです。近年の大企業経営は、設備投資を先行し、いい製品をつくり輸出する、あるいは賃上げをして内需を温めていくやり方ではありません。モノづくりではなく、グローバルな金融活動が大企業の利益の大きな源泉になっています。でも、こんな経営は、変転する世界の金融市場に振り回されます。日本政府の対外政策や外交がアメリカのイエスマンでしかないこともあって、経営者の将来不安は払拭されず、それが内部留保の積み上げにドライブをかけ、四百五十兆円にまで積み上がっている、と言えます。

 この一種の「埋蔵金」とも言うべき四百五十兆円を、このまま見過ごすことはないわけです。財務省は「内部留保金への課税に否定的」で、麻生財務大臣も、希望の党の課税論に「二重課税になる」と反論(一七年五月)する一方で、内部留保の巨額のため込みには批判的な発言を繰り返しています。昨年、財務省が課税の検討に入るのではないか、という報道もありました。

 とにかく、財務大臣でさえ内部留保金のため込みを批判しているわけですから、この「埋蔵金」四百五十兆円を放置することはありません。危機的事態にある政府債務の解消のため、負担できるところが負担する「応能負担」の見本として有効利用してもらいましょう。

 【対外資産】

 大規模な対外投資を推進してきた日本が、国外に持っている資産の規模はダントツの世界一です。世界一の日本の対外純資産総額はざっくり三百三十兆円です。これは、国の貸し借りも含めて、負債をすべて引いたうえでの金額です。三百三十兆円のうち三分の一は日本政府が持っている外貨準備ですが、中身は日本政府が購入したアメリカ政府発行の国債です。あとは民間企業・金融機関の資産であり、二百兆円ほどあります。

 二〇一一年の大震災のとき、海外のメディアに登場した識者や大学の研究者などが、〝日本は百兆円の外貨準備を持っている。それを売って震災対策に使うべきだ〟などと日本政府へメッセージを出したのですが、政府はいっさい手をつけませんでした。大震災のような「国難」に直面したときには、こうした政府の資産はそれにふさわしい使い方をすべきであって、私たち主権者も積極的に提案し、政府を動かすべきだと思います。

 このように、大企業の内部留保金四百五十兆円、対外資産三百三十兆円、富裕層の純金融資産三百兆円、これを合わせると--統計上は多少の重複分がありますが--一千兆円を超えます。ですから消費税以外の財源は十分すぎるほどあります。

 でも、なぜ消費税増税が繰り返し出てくるかというと、実はもっとも深い根っこに、経済規模(GDP)の約二倍に達する一千兆円を超える累積国債などの政府債務=借金が存在するからです。

 過去も同じ事態に陥ったことがあります。第二次世界大戦下で、軍事予算を組み、兵器の購入や兵士の給料支払いのために大量の国債が発行されました。政府が大きな借金を残したまま、一九四五年(昭和二十年)八月十五日に敗戦を迎えました。このときに抱えていた借金の割合は現在とほぼ同じ経済規模の二倍です。

 日本は戦後七十年、戦争を一度もしなかったにもかかわらず、第二次世界大戦をやったときと同じ規模の、深刻な政府債務を抱えています。敗戦直後と同じなのです。

 ■この一千兆円の政府債務は、余裕があり負担ができるところから負担してもらう

 では、この巨額の債務をどうやって返していくのかという課題は、歴代の政府にずっとつきまとってきましたが、政府は先送り先送りを繰り返して、今日に至っています。

 一千兆円を超す借金、正確には都道府県など地方の借金もありますから、一千三百兆円近くになります。日本の人口は赤ちゃんを含めて一億二千六百万人ですから、政府の試算では、一人あたり一千万円、四人家族だと四千万円の借金になります。返せるわけがありません。住宅ローンや教育ローン、車のローンだってあります。

 国が赤字国債を発行し始めた一九七五年当時から、すでに三菱総研などのシンクタンクは、〝これは大変な事態になるから、債務管理庁という独立した組織をつくって、債務管理を専門にやらせるべきだ〟、そうしないと日本の将来は危うい、と「警告」していました。いまから四十年以上前です。これをずっと先延ばしにしてきて、とくにバブル崩壊の後始末を九〇年代後半からの国債増発で凌いで、一挙にここまで突き進んできました。

 この借金返済をどうするのか、もっとも手っ取り早い財源とされたのが消費税です。というのも、法人税や所得税は景気に左右されます。景気がよく売上げが伸びれば法人税も伸びます。しかし不景気になると、税収は一挙に落ちます。所得税も同様で、景気に左右されます。でも消費税は、景気に左右されません。国民誰しも日々生活して衣食住を消費しなければなりませんから、消費税は景気変動から逃れています。税金をとる側にしてみれば、まとまった税収として計画的に位置づけることができる便利な税金なのです。

 実は、IMFとか世界銀行というグローバルな投資家の味方、アメリカの味方は、以前から日本は早く消費税を一五%にしろと主張していました。その理由は明快で、一千兆円もの借金を抱えたままの日本では、世界の投資家は安心して日本に投資できない、国債の担保、支払い能力を税金でしっかり支えなければ、日本の国債は暴落する、日本の株も危なくなる、日本に投資ができなくなる、ということでした。

 世界の投資家の目線がそういうものであり、また日本財務省も、とにかく消費税をきちんと押さえておくことが国庫の資金繰りの安定にとって欠かせないという認識です。

 私たち一人ひとりの主権者がしっかりと主張しなければ、新自由主義的「自己責任」論だとか、世界の投資グループからの圧力という大きな流れのなかで、またその流れに乗っている日本経団連やメディアの国民への負担押しつけによって、三%から五%、五%から八%へと、ずるずると引き上げられてきた消費税率がさらに一〇%に引き上げられ、結局、日本国民の大切な生活が犠牲にされてしまいます。大企業はますます法人減税の恩恵を受け、富裕層はますます金融資産を膨らませ、国際的な投資家は日本への投資というかたちで金融的な収奪を強めていきます。

 消費税増税をめぐって私たちを取り巻くこのような大きな枠組みを、ぜひとも認識することが大切です。

 そして、平凡な結論になるかもしれませんが、やはり、「応能負担」原則を貫き、資力に余裕があるところに税金を負担してもらいましょう。日本の大企業と富裕層には、これまで見てきたように、この負担に耐えうる十分な資力があるからです。

 ■終戦直後には、ハイパーインフレ、預金封鎖で、国民生活を犠牲にして政府債務を「解消」した

 最後に、現在と同じように、経済規模の二倍にまで膨らんだ終戦直後の政府債務がどういうやり方で「解消」されたかについて、お話ししたいと思います。

 債務「解消」のためにとられた方法は、主に二つです。一つはハイパーインフレ、もう一つは預金封鎖です。これで、債務を「解消」していきました。

 東京の消費者物価は、昭和二十年から二十五、六年までに、だいたい三百倍になりました。五百円で食べていたラーメン一杯が、五、六年後には十五万円になった計算です。つまり、貨幣価値はほとんどなくなったのと同じでした。生活が成り立たないので銀行の預貯金を引き出そうとしても、封鎖されていて、世帯主ですら一ヵ月に三百円しか引き出せませんでした。銀行を信用せず現金(「タンス預金」)で持っていた国民も、当てが外れました。なぜかというと、政府は新札(新円)を発行し、旧円の流通を禁止したからです。

 つまり、物価を三百倍にし、お金の価値を三百分の一にすることによって、政府が抱え込んだ借金を三百分の一にしたわけです。これをインフレによる政府債務の洗い流しと言いますが、終戦直後にはそういうことがありました。物資は戦争で破壊され不足しているところに、軍事国債の日銀引受で調達された過剰なマネーが財政ルートから軍需企業へばら撒かれたので、爆発的なインフレが発生したからです。

 こういうやり方は、なんとしても避けなければなりません。

 第一次大戦の敗戦国であったドイツは、GDPの約二・五倍の賠償金を課せられ、ハイパーインフレが発生し、物価が一兆倍にもなりました。国民生活は破滅的なダメージを受け、それがヒトラー登場の遠因となったといわれています。近年も、ソ連からロシアへの移行時の経済混乱などで、ハイパーインフレが起こっています。

 歴史を振り返ると、戦争に敗北したドイツと日本は多額の政府債務をインフレで洗い流したわけですが、国民生活への打撃は計り知れないものでした。こういう悲惨な歴史は二度と繰り返してはなりません。

 やはり、あり余るほどの資産をため込んでいる大企業や富裕層に負担を求めること、不公平税制を改善すること、とくに優遇税制の恩恵を受けながら法人税をほとんど払っていない巨大企業に応分の負担を求めることが必要です。

 これらのことは、国会で議決すれば直ちに実現できるわけですから、日本政治にそういう力関係をつくりあげていくことが、いま私たち主権者が直面している重要な課題であることを強調して、本日の結びとします。

 ご清聴ありがとうございました。

┌───────────────┐

│ パネルディスカッションでの │

│ 発言から                   

└───────────────┘

 私へのご質問は、前回の税率アップの中止時より悪化している経済指標を一、二例あげてほしい、ということでした。

 まずあげられるのは、トランプ大統領の仕掛けた米中貿易戦争で、世界の経済成長が急低下したことです。さらにもっと大きな背景としては、世界経済のあり方が、産業革命以来の欧米中心の時代から、すでに世界一の経済圏に成長したアジア経済に主導される時代が到来したことです。

 明治以来、原材料・資源に乏しい国が世界のトップクラスに駆け上がれたのは、外需、貿易の力が大変に大きいのです。いま日本の最大の貿易相手国はどこかというと、アメリカではありません、中国です。日本の輸出入総額にアメリカが占める割合は、一四%ですが、中国は二〇%を超えています。中国がくしゃみをすると、日本は肺炎になるくらいの影響力を中国経済が持ちました。

 ですから、税率アップを延期した前回二〇一六年当時と比べて深刻なのは、中国経済が成長ダウンを始めていることです。これまで中国の経済成長率は七~八%前後で推移してきたのですが、今年に入って六%台に目標値が下げられました。二十八年ぶりの低成長だといわれています。

 日中間の貿易は、政治的関係の悪化などで一時的な落ち込みもありましたが、それは本当に一時的なもので、ずっと前年を上回る実績を上げ続けてきました。だがここにきて、中国経済にバブル崩壊と成長鈍化が表面化したことは、日本経済にとって非常に深刻です。

 今年一月の金額ベースでは、対中輸出は一七・四%の大幅な落ち込みです。数十年来、こんなことはありませんでした。

 日本はドイツと並んで、工作機械を得意な分野としてきました。日本の工作機械は世界一だといわれています。その工作機械の中国を含めた海外輸出が、前年比で一八・八%減ったのですが、なんと中国向け輸出は、五六・四%も減ってしまいました。日本工作機械工業会の会長は、こんなことは戦後初めてであり、とても深刻な事態と言います。

 こういう数値に示されるように、現在の日本経済は、中国経済が成長鈍化に入ったことによって、その何乗倍も深刻な影響を受けています。これが現状です。欧米の大学やシンクタンクが予測するように、あと四〜五年で中国経済の規模はアメリカを上回り、中国が世界最大の経済大国になるでしょう。日本経済はますます中国経済の動向に巻き込まれていくでしょう。

 それなのに、日本政治の運転手は、まったく反対の方向を向いて、この現実を直視しません。安倍政権のもとでの政治と経済のねじれはとても深刻です。中国を含めたアジア諸国との平和的な共存・共栄の道を歩むことで、現在の「経済大国」の地位をなんとか維持できるかどうか、日本が直面しているのはこういう現実です。



経済社会評論へ