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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

44. 2016年の経済潮流を読み解く



  生活脅かす異次元緩和

 日本銀行は、2015年12月の金融政策決定会合で、2016年も異次元金融緩和政策を継続し、さらに補完措置を採用する方針を決定しました。
 異次元金融緩和政策は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざすアベノミクスの命綱です。安倍晋三政権の意向に沿って、黒田東彦(はるひこ)総裁のもと、日銀が異次元金融緩和政策を推進することで、国民生活は深刻な問題に直面しています。
 第1は、円安問題です。
 本来はインフレを押さえ込む「物価の番人」のはずの日銀が、2%のインフレ目標を掲げ、経済成長とは無縁のバブルマネーを大量に供給しています。その結果、日本「円」の信認は低下し、1ドル90円台から120円台へ、円安が加速しています。

  輸入物価が上昇
 食料の6割を輸入に依存する国民生活は、円安で打撃を受けています。いままで1億ドルの食料を輸入するには90億円の支払で済んだのに、120億円も支払うことになったからです。この輸入価格の上昇分は国内の食料品価格に上乗せされ、食料品の値上げラッシュが続いています。
 円安で大もうけしたのは大手輸出企業です。トヨタ自動車などは、1円の円安で200億円の儲け(為替差益)が発生するとみられ、円安大歓迎です。ほぼ3兆円の戦後最高の利益のうち、濡れ手に粟の円安差益はその2割ほどに達したようです。
 しかし、原材料を海外から仕入れる中小企業は、国民生活同様、円安による仕入れ価格の上昇に直撃され、経営は厳しさを増しました。中小企業の休廃業と地域経済の衰退が加速しています。
 第2は、株高と資産格差の拡大です。
 異次元金融緩和と円安にビジネスチャンスを見出し、日経平均株価を8000円台から2倍以上にした株高をもたらしたのは、年間15兆円(2013年度)も日本株を買い越した外国法人の株式投資です。いまや外国法人はわが国の3割の株式を所有する最大株主になりました。

  資産格差が拡大
 株高を維持するために安倍政権は、日銀や年金積立金の株式運用枠を拡大する株価つり上げ策を展開しています。株価が下落した昨年7〜9月期には国民年金・厚生年金の積立金に8兆円ほどの損失が発生しました。
 株高は、金融機関・企業・富裕層の株式資産を倍増しましたが、株式投資とは無縁な多数の国民にはなんのメリットもありません。むしろ、資産格差を拡大しただけです。高級百貨店の高額商品の売上げは伸びましたが、全国のスーパーの売り上げは低迷したままです。
 そのうえ、最大株主となった外国法人は、「もの言う株主」としてより多くの株式配当金を求め、経営の効率化と日本的経営の解体を迫りました。労働環境は悪化し、非正規雇用が拡大し、賃金は切り下げられました。
 第3は、国債の累積と国民負担の増大です。
 異次元金融緩和で供給されたバブルマネーは、民間銀行をつうじて国債の大量投資に向かい、毎年約40兆円の国債の大増発を支えました。国債発行残高は、1040兆円に達します。国債は、政府の借金ですから、借金返済のため、消費税増税、社会保障予算の削減など、国民負担率(国民所得に対する税金と社会保障の負担割合)が増大し、安倍政権下で、過去最高の43・4%になりました。
 2016年度の一般会計予算は96・7兆円ですが、そのうち借金返済にあたる国債費は、23・6兆円(歳入に占める国債依存度は35・6%)になり、社会保障費などの他の予算を圧迫しています。
 2016年は、企業も個人もトップ数%がわが世の春を謳歌(おうか)し、国民には「1億総貧困社会」をもたらすアベノミクスの転換が問われる年になるでしょう。


 「官製バブル」の崩壊リスク

 2016年から17年にかけ、世界が注目するのは、日本国債の暴落リスクです。自国の経済規模(GDP)の2倍を超えた1040兆円の国債残高は他国に例がありません。日本銀行の国債所有額も、年80兆円のペースで増やしているため、年末には400兆円を超えます。財政資金が日銀から調達されている(財政ファイナンス)との認識が広がり、国債大量買いオペを柱にした異次元金融緩和政策も、限界に近づいているからです。
 アベノミクスの異次元金融緩和政策は、株式市場や国債市場で「官製バブル」を引き起こし、内外の金融機関・大口投資家・大企業の財務部門は、この「官製バブル」を利用して巨額の利益を獲得しています。

  国債を買い支え
 日銀は、株価に連動する上場投資信託(ETF)の購入を通じて、株式市場にマネーを供給し、株価をつり上げています。また年間120兆円に達する国債買いオペを通じて、国債を買い支え、国債価格を暴騰させ、10年物長期国債金利で0・3%台という超低金利へ誘導しています。
 賃金を切り下げ、株主への配当金を倍増し、内部留保金を貯め込む日本経済は、深刻な消費不況から脱出できず、16年も低成長が見込まれます。低成長下で高い利益を求めるため、資本は株式市場や国債市場などを舞台にした金融ビジネスとマネーゲームで利益を追求することになります。アベノミクスの異次元金融緩和政策は、このような資本の要求に最大限応える政策となっています。
 実体経済の成長をともなわないバブル経済は、何かのきっかけで崩壊を繰り返します。アメリカの住宅バブルの崩壊が引き金になったリーマン・ショックは、世界の金融危機と大不況を誘発しました。昨年夏、中国のバブル崩壊で世界同時株安になり、株式投資に向けられていた国民年金・厚生年金の積立金は8兆円の巨額損失に直面しました。

  国民生活を直撃
 アメリカのように金融緩和政策の出口に踏み出せば、安倍政権は自らバブル崩壊の引き金を引くことになります。株式バブルの崩壊は株主を直撃しますが、国債バブルの崩壊はより広範囲の国民諸階層を直撃します。それは、国債が政府の借金であり、また国債金利と住宅ローン金利などが連動しているからです。
 第1に、国債暴落にともない国債金利が1%上昇すると、財務省の試算では、一般会計予算に計上される国債費(23・4兆円)は年々増加し、1年目25・9兆円、2年目29・2兆円、3年目では32・6兆円になります。国債費の増加は、将来世代の負担を増やし、また社会保障費など他の予算を圧迫し、消費税の増税圧力となります。
 第2に、国債金利の上昇は、それに連動する住宅ローン金利の上昇を誘発し、月々のローン返済額が増大し、家計を圧迫します。銀行からの借入金に依存する中小企業の金利負担は増大し、経営を圧迫します。
 第3に、国債を金融資産として所有している金融機関、企業、日銀の資産が暴落し、経営を悪化させ、不況を深刻化させます。とくに日銀は、いまや最大の国債所有者です。国債暴落は日銀資産を直撃し、円への信認を損ない、大幅な円安を招きます。円安は、輸入価格を上昇させ、国内物価を押し上げ、家計に負担を強います。
 安倍政権は、7月の参議院選挙までに、日銀にさらに追加的な金融緩和を実施させ、バブル経済のエンジンを全開させ株高をあおり、選挙勝利を目論んでいるのでしょう。それは、日本経済と国民生活を危険なバブル経済に船出させ、崩壊の危機に追い込んでいる責任も問われることになります。アベノミクスは、もはや引くに引けない崖っぷちに立たされているようです。

 (注)買いオペ 中央銀行が国債などを買うやり方で、金融機関に資金を供給すること
                    (「しんぶん赤旗」 2016年1月13〜14日)


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