58. 異次元緩和5年-負の遺産累積と国民転嫁の危機-
安倍政権は、日本銀行を「金庫」のように利用し、ジャブジャブの資金を供給する異次元金融緩和政策(図)を2013年4月から続けてきました。まもなく丸5年になります。
物価が下落する「デフレ不況」の原因は、アベノミクスの見立てのように経済活動に必要な資金の不足ではなく、深刻な消費不況にありました。したがって、「デフレ不況」から脱出するには、金融緩和政策ではなく、消費不況対策、つまり、賃金を上げ、消費税率や各種の公的負担を下げることで可処分所得を増やし、国民の懐を温め、購買力を高める政策です。
これは、国民にとって願ってもない政策でしたが、財界の利益を最優先する安倍政権は無視しました。代わりに、実質経済成長率は低迷しているのに株価は2倍に吊り上るといった、バブルを引き起こす異次元金融緩和政策が5年間も続きました。
「異次元」の金融緩和とは、金利の引き下げといった金融緩和と異なり、日銀が民間金融機関の保有する国債を買い入れるやり方(国債買いオペ)で巨額の資金を供給する「量的緩和」と、株式市場や不動産市場へも資金を供給する「質的緩和」を一体化させた異常な金融緩和です。歴史的に例を見ない異次元金融緩和政策は、異次元の負の遺産を積み上げてきています。
第1に、日本の経済社会に亀裂をつくり、貧困と格差を拡大してしまいました。異次元緩和はアベノミクスによる「官製バブル」を発生させ、株式などの金融資産価格を暴騰させ、大企業、内外の投資家、富裕層の金融資産を増大させる一方、株式保有とは縁のない多数の国民や中小零細企業を置き去りにしました。かつての「1億総中流社会」から、「貧困・格差大国」日本への転落です。
第2に、日銀による国債の大量買入は、国債発行の歯止めをなくし、国債増発を加速させ、国債発行残高は1000兆円を超えてしまいました。自国の経済規模の2倍を超える借金を抱え込んだ「政府債務大国」への転落です。すでに一般会計歳出の4分の1を占める国債利払い費用を捻出するために、新しい財源が求められ、消費税増税・社会保障予算の削減といった圧力が強まってきました。
第3に、この政策自体が限界を迎えていることです。ジャブジャブの資金供給のために大量の国債を買い続けた日銀は、すでに国債発行残高の4割を超える440兆円ほどの国債を抱え込み、買入対象となる国債の品不足に直面しつつあります。
量的緩和が限界を迎え、買入国債の減額が始まると、円高になり、国債価格が下落するなど、市場に動揺が走りました。日銀の動きが、「官製バブル」の崩壊の引き金となる危うい事態を招いています。
1980年代のバブル崩壊では、銀行救済のために国民の血税が投入され、大企業のリストラで労働者や下請けにしわ寄せされました。バブル崩壊のリスクが再び国民に転嫁されることがあってはなりません。