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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

経済社会評論集

8.グローバリゼーションの罪と罰

はじめに

 世紀の転換点にたって、20世紀と21世紀の経済を比較してみると、21世紀の特徴は、ヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に移動し、経済活動が地球的な 規模で営まれるようになったこと(グローバリゼーション)であろう。まさにグローブ(globe)=地球を舞台にしたビジネス展開の世紀が21世紀経済の 特徴といえる。前人未踏の領域に踏み込んだ現代経済は、それゆえにまた解決困難な新しい問題をつぎつぎに抱え込むことにもなった。

拡大しつづける内外の経済格差

 情報通信技術(IT)の発展に支えられ、ヒト・モノ・カネ・サービスなどが、国境を越えて動き回るグローバリゼーションが進展するにつれて、世界的に各種 の経済格差が拡大してきている。グローバリゼーションのもとで拡大する経済格差について、国連開発計画(UNDP)の調査を紹介しておこう。
 先進国と発展途上国・最貧国との貧富の格差は拡大する一方である(図参照)。たとえば、世界で所得の多い上位20%の人たちと所得の少ない下位20%の人たちとの所得格差は、1960年には30対1だったが、90年には60対1、97年には74対1、となった。
 また、世界の高額所得者200人は、過去4年間で自分たちの資産を10兆ドルへと倍増させたが、1日1ドル以下で生活する人の数は、同じ4年間で減少することなく、13億人のまま推移してきている。
ちなみに、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長の資産とブルネイ国王の資産とウォルマート・ストアの経営者一族の資産を合計すると、最貧国48カ国(人口6億人)の国内総生産(GDP)の合計を上回っている。
 こうした経済格差は、そのまま情報の格差など文化面での格差にも反映される。1台のコンピュータの平均価格は、アメリカの勤労者の平均所得の1カ月分に相当するが、バングラデシュでは勤労者の8年分の所得に相当する。
こうした現状をふまえて、さきのUNDPの調査報告は、「所得と生活水準の世界的不平等はグロテスクなほどになった」と結論づけた。また、国連開発局 (USAID)前局長のブライアン・アトウッドは、「先進国は多くの人たちが後ずさりする中で恥も外聞もなく金持ちになっている」と述べている(以上、 『日本経済新聞』1999年9月8日)。
 グローバルに拡大する経済格差は、国際社会の緊張を高め、アメリカの冨の象徴に対する9・11テロなどの経済的な背景になっている、との指摘は、否定しがたい説得力を持っているといえよう。
格差が拡大してきたのは、先進国と発展途上国だけではない。最富裕国であるはずのアメリカ国内においても、グローバルに富を集め、資産を積みます富裕層とそれ以外の所得階層との経済格差は、拡大する一方である。
 イギリスの『エコノミスト』(1994年11月5日)誌によれば、「1973年から1992年の期間に、アメリカの最下位10%の家族は,11%の実質所 得の下落に苦しんだが,最上位10%の家族は,実質所得を18%も増大させた。イギリスでは,底辺の10%の実質所得は,引き続き増大している が,1973年から1991年の期間ではたったの10%であり,対照的に,最上位10%の実質所得は,55%も増大した。」。

空洞化する国内産業と深刻化する失業問題

 内閣府経済社会総合研究所の行った「平成13年度企業行動に関するアンケート調査」は、日本経済の空洞化が急速に進展している、と指摘している。日本の企 業のうち、海外の現地で生産を行う企業の割合を見ると、製造業では、1990年度の40・3%から2001年度には60・6%に上昇した(『日本経済新 聞』(2002年4月12日)。
 企業収益の海外依存度も高まり、2002年度の3月期連結決算(上場498社)で見ると、じつに27・6%にも達している。日本企業の収益のほぼ3割 は、海外に依存していることになり、この割合は、今後、さらに高まっていく傾向にある。海外依存の高い企業の例としては、ソニー97%、旭硝子88%、三 菱商事78%、ホンダ63%、などであり、収益を海外に依存する割合は、製造業だけでなく、あらゆる業界に及んでいることがわかる(同紙、2002年8月 17日)。
 先進諸国のように労賃や企業の社会保障負担の高い国は生産コストが高くなるので、生産効率を競った地球的な規模での資本の大移動が可能になると、工場やオ フィスをもっとコストの安い海外に移転させるようになる(図参照)。その結果、先進諸国では、国内産業の空洞化が引き起こされ、それに応じて働く場と雇用 機会が削減され、失業が増大する。
 というのも、人や家族も、そこで暮らしを営む地域社会も、海外へ出ていく工場やオフィスと一緒に移住できないからである。世界中の「企業城下町」では、代々工場に勤めていた従業員の一族が、工場の海外移転にともない一族もろとも失業する事態が発生している。
 旺盛な対外進出をつづける日本企業が海外の現地で採用する従業員数は、およそ300万人と予測されるが、周知のように、国内では400万人弱の大量失業者を排出させている。

高まる反グローバリズム

 近年,グローバリズム(グローバル資本主義)をめぐって内外から批判的な世論が高まっているが、そこには,共通した認識があるようだ。
 すなわち,グローバリゼーションとは,アメリカナイゼーションであり,グローバル・スタンダードとは,アメリカン・スタンダード、つまり、株価と証券ビジ ネス,高利回りと市場原理を最優先させるビジネス・スタンダードであり,ヘッジファンドのような投機的な収益至上主義とウォール街を舞台にしたマネー循環 とそのシステムに対する世界の忠誠を促すものムといった認識である。
 反グローバリズムの主な発言は、たとえば,「極度の貧困化と不平等が増大」(マレーシア・マハティール首相),「苦い薬もバブルよりはまし」(フィリピ ン・エストラーダ大統領),「米国型は弱肉強食の猛獣型資本主義」(シュミット元西ドイツ首相)といった各国首脳の発言から,「人間を食い物にするような グローバル企業や金融機関から民衆や地域社会を守ることこそが,現代の安全保障の中心的な課題である」(デビッド・C・コーテン『世界』1998年8月 号)といった主張まで,多様な批判が散見される.
 こうした批判は,いずれもアメリカのウォール街の金融覇権や強大な軍事力にものをいわせた外交姿勢に対する批判とみることができる。はたしてわが国はグローバリゼーションにどう対応していくのだろうか。

グローバリゼーションへの日本人の拒否感

 日本は、グローバリゼーションへの拒否感が、世界でも高い国である、との世論調査がでている。新聞報道(『朝日新聞』、2002年2月3日)によれば、 2002年2月の世界経済フォーラム年次総会(「ダボス会議」)で発表された世界25カ国の世論調査では、「グローバル化が働くものの権利や労働条件、給 与をどう変えるか」という問いに対して、「良くなる」と答えた日本人の割合は、一六%にすぎず、この割合は、25カ国中最低であった。
逆に、「悪くなる」と答えた日本人の割合は67%にも達し、この割合は、グローバル化の中で経済危機に陥っているアルゼンチンに次ぐ高さであった。
 この調査で見る限り、興味深いことに、日本人の意識は、アングロ・アメリカン型の経済のグローバル化と「弱肉強食の猛獣型資本主義」に対して強い拒否感をもち、むしろそれとは対極的な経済社会のあり方を希望しているようである。
 だが、それにもかかわらず現代日本で採用される各種の経済政策、とりわけ金融経済システムは、アングロ・アメリカン型への大転換に踏み出している。はたしてこのギャップは、どのようにして埋められるのか、そのことが、今後、鋭く問いかけられることになろう。

【やまだ ひろふみ・群馬大学教育学部教授】
    (e-mail : yamachan@edu.gunma-u.ac.jp)
『季刊 群馬評論』第93号、群馬評論社、2002年12月、掲載。


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