I TOP I site policy I contact I 印刷用表示 |テキストサイズ 小 |中 |大 |

HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

29. 成長と福祉を両立した循環型経済〜世界恐慌と日本の選択-その2-〜

1 はじめに

 「100年に1度」の世界恐慌の発祥地アメリカよりも、日本経済の落ち込みの方が深刻となった事態は、海外需要に依存しきった経済社会の脆弱性とリスクの高さを証明してあまりある。
 戦後日本のアメリカ依存と外需依存型経済は、いま、あきらかに大転換を迫られている。それは、単に日本の経済社会の利益にかなうだけでなく、激変する世界経済と国際社会のあり方に対応した、わが国の21世紀の展望を切り開くための課題でもあるようだ。
 国内経済や地域社会の疲弊を放置したまま、多国籍化した日本の巨大企業・金融機関の利益のためなら、地球の果てまで日本製品を売りまくる日本経済のあり方は、国内外ともに、もはや通用しない時代が訪れている。
 日本の経済社会にいま求められているのは、解雇と年金不安、ワーキングプアを再生産する経済の仕組みを抜本的に見直し、国内需要と福祉の充実に支えられた新しい経済システムにほかならない。

2 日本も変われるかー「規制緩和」と「民営化」政策からの脱却

 まず見直されるべきは、「小さな政府」、「規制緩和」、「民営化」といったキャッチフレーズで断行されてきた一連の市場原理主義的なイデオロギーと政策である。
 「官」、つまり公共部門は、非効率であり、無駄が多く、しかも不透明のため、不祥事が後を絶たないので、競争原理を働かせて、効率化し、無駄を省くためにできるだけ民営化する、といった市場原理主義的なイデオロギーと政策が断行されてきた。
 だが、「官」の規制緩和と民営化を主張してきた経済界は、長期不況と不良債権問題が深刻化すると、「官」から巨額の公的な資金援助を引き出し、「官」を最大限利用してきた。公的資金を注入することで救済される仕組みは、金融機関だけでない。
 2009年4月から、5000人以上を雇用する大企業にかぎり、公的資金で株式を買い取り、資本を注入する仕組み(「産業活力再生」特別措置 法)も整備された。不況を理由に、数千人規模で従業員を解雇する大企業に対して、公的資金が援助される。公的資金の認定第一号は、2009年6月30日、 NEC・日立・三菱電機の関連会社である半導体メーカーのエルピーダであり、400億円が投入された。
 こうした事実は、一連の市場原理主義的なイデオロギーと政策のねらいが、国民諸階層と中小企業にリスクを転嫁しつつ、国家と財政を独り占めにしようとする政・財・官による三位一体的な利益の追求にあった、ということを意味している。
 公的部門が非効率で、無駄が多いなら、効率的で無駄遣いのできないような厳しい規則を制定すべきであった。不透明で、不祥事が後を絶たないな ら、徹底した情報の開示と厳しい罰則規定を制定し、不祥事の再発防止に努めるべきであった。だが、このような肝心な改革はしないで、規制緩和と民営化が断 行されてきた。
 その結果はもはや明らかである。巨大企業と金融機関はさらに巨大化し、不況下にあっても史上最大の利益を記録し、より強固な経済支配を実現する 一方、国民生活や地域経済を担う中小零細企業はますます地盤沈下を余儀なくされた。わが国の6500万人の勤労者の就業と生活は、ますます不安定化し、非 正規労働者に追いやられ、「派遣切り」、「ネットカフェ難民」、「ワーキングプア」、解雇と失業、将来不安と「年金不払い」、といった悲惨な経済社会に突 き落とされた。
 他方で、政・財・官による三位一体的な利益はそのまま温存され、1部の政治家は関連業界から政治献金を受け取りつづけ、またキャリア官僚の天下りもそのまま継続している。
いかにしてこのような社会から脱却するか、戦後、わが国を従属させてきたアメリカの新大統領のメッセージは、そ の1つの方向を示しているようである。

3 大企業・金持ち減税の廃止と所得の再分配—バラク・オバマのメッセージ

 ホワイトハウス前に集まった200万人の支持者を前に大統領の就任演説をおこなったバラク・オバマ( Barack Obama )は、それまでブッシュ政権がおこなってきた税制改革を抜本的に見直し、大企業・金持ちへの増税と低所得者への減税を実施し、高額所得層から低所得層への 所得の再分配のための政策に踏み出している(図表1)。
 「富の集中は、隠された時限爆弾」( Financial Times Jun. 25 2009 )にほかならない。オバマ政権は、年収ほぼ2500万円超の高所得家計の個人所得税を引き上げ、最高税率をブッシュ政権以前の39.6%にもどす。また、 金融商品の売買差益や株式の配当金についても、税率が20%まで引き上げられ、ヘッジファンドの成功報酬への課税も強化する。さらに各種の企業優遇措置の 廃止、国際取引への課税強化などにより、全体として、ほぼ20兆円の増収を見込んでいる(『日本経済新聞』、2009年4月28日)。
 だが、わが国の場合、株式配当金への税率は、上場株式では、100万円以下で7%、それを超えた金額に対して15%という低税率が課せられてい る。大多数の国民が利用している銀行預金から受け取る利子所得への税率は、一律20%であり、株式の配当金への税率よりも高く設定されている。銀行預金を 株式市場へ誘導し、アメリカのような「投資立国」をめざそうとするわが国の税制は、株式保有層のような金持ち有利の税制のままである。これでは、国民諸階 層の経済格差は拡大する一方である。
 しかも、低所得者層への負担を強いる消費税は、3%から5%へ引き上げられ、さらに昨今では、12%といった数字が新聞の1面を飾る情勢にあ る。生存に必要な衣・食・住にも、宝石や奢侈品にも同じ税率が適用されるわが国の消費税は、国民の経済格差を拡大するだけでなく、消費のたびに課税される 仕組みなので、国民の消費意欲は、いっそう冷え込み、国内需要が縮小し、景気の足を引っぱる結果となるにちがいない。
 わが国の金融経済システム改革の手本とされてきたアメリカが変わりはじめた。手本となる国が変わってきているのだから、わが国だって、変われな いはずはない。7月21日に衆議院が解散され、9月には新しい政権が発足することになろう。新政権のもとで、はたしてわが国の不公平な税制と所得分配の構 造がどのように改革されるか、その動向は十分注目されよう。
 拡大する格差を解消するには、現行の税制や予算配分の抜本的な見直しによって、大企業や高所得層の利益に手をつける大規模な所得の再配分を実現 する必要があるからである。わが国の次期新政権は、アメリカのオバマ政権のような本来の改革に乗り出せるか、それが問題だ、といえよう。
 ただ、イギリス経済紙( Financial Times May 6 2009)によれば、略奪的なサブプライムローンで稼ぎまくっていたアメリカのトップ25の巨大金融機関は、1999〜2008年の期間に、円換算でほぼ 370億円もの政治献金をおこない、政党や大物政治家への積極的なロビー活動を展開し、自分たちのビジネスに邪魔な規制を緩和してもらってきた。とくに大 統領選挙のある2007〜8年にかけて、アメリカの証券業界は、152億円もの政治献金をおこなったが、それを受け取っていたのが、かの2大政党(共和党 65億円・民主党87億円)であり、また政治家では、バラク・オバマ(ほぼ15億円)、ジョン・マッケーン(ほぼ9億円)、ヒラリー・クリントン(ほぼ7 億円)、などであった。
 こうした事実は、民主党・オバマ政権の今後の政策展開に暗い影を投げかけていることもまた確かである。だが、大統領就任演説の会場を埋めた200万人の支持者達を初めとした、アメリカの健全な圧倒的な世論が、この暗い影を払拭する可能性は注目される。

4 景気対策の転換—箱物づくりから福祉充実へ

 ともあれ、いままでのような箱物づくりの公共事業、「官」から「民」への「構造改革」と規制緩和政策では、景気が回復しないことは、事実によって繰り返し証明されてきた。
 そもそも個人消費は、わが国経済(GDP)のほぼ55%を占め、国内需要(他に政府支出と民間投資)の王様に他ならない。個人消費の拡大に支えられた国内需要の拡大こそ、底堅い景気回復のための不可欠な条件である。
内閣府の推計でも、世界的な大不況で欧米への輸出が激減し、国内の需要と供給のバランスが崩壊し、2009年1〜3月期での国内需要不足は、過去最悪の45兆円にも達していた。外需依存の危険性と内需不足の深刻さが繰り返し証明された。
 では、いかにしたらこれ以上の財政赤字の拡大を回避しつつ、国内需要と個人消費を増やすことができるのか。その回答もまた明解である。賃金を上げること、不安定就労をなくし雇用を安定化させること、年金などの将来不安を解消することである。
 さらに、このようにして底上げされた個人消費の向かう先を、少子高齢社会の到来したわが国にとって、広大な国民的ニーズの伏在する分野(介護・福祉・医療など)に向けていったならば、着実に景気が回復する。
 このような景気回復は、多国籍企業や外資にとってメリットはないが、国民経済の安定と国民生活にとっては、待ち望んできた景気対策である。こうした景気対策の積み重ねを通じて、日本の経済社会は、21世紀の新しい世界を切り開いていくにちがいない。
 というのも、介護・福祉・医療といった社会保障分野は、各種の調査によって確かめられているように、環境や省エネ分野とともに、今後、もっとも おおきな成長の見込める分野にほかならない。福祉関連事業の発展は、関連する産業分野に大きな波及効果をもたらし、新たな雇用を生み出し、さらに国民の将 来不安を取り除く効果も期待されるからである。
 社会保障分野とそのほかの産業での雇用創出効果を比較すると、そこには大きな格差が存在する(図表2)。需要1億円あたりの雇用創出人数は、社会保障分野が圧倒的に多数であり、介護では2万4786人、社会福祉でも1万8609人の人々に新しい雇用機会を与える。
 だが、公共事業となると、雇用創出効果は激減し、わずかに9970人にしか雇用機会を与えない。機械化された大規模な公共事業は、大手ゼネコンに恩恵があるだけで、雇用機会を拡大する効果はない。
したがって、景気を回復させ、経済を成長させるためには、民間部門では、国内の6500万人の勤労者の賃金所得と雇用を安定化させ、公共部門では、予算配分において社会保障分野に重点配分することである。
 だが、現代日本では、周知のように、全く逆のことがおこなわれてきた。政府は、「構造改革」、「骨太方針」のもとに、2002年度予算から、毎 年2200億円の社会保障予算を削減しつづけ、8年間で総額8兆円の社会保障費を削減した。これでは、ますます個人消費を萎縮させ、不足する国内需要を放 置し、不況の長いトンネルから脱出できない。抜本的な政策転換が、わが国においても求められているのである。
 経済の成長と福祉の拡大は両立できる。むしろわが国の21世紀の課題は、そこにある、といってよい。周知のように、ヨーロッパ、とくに北欧諸国 は、この課題を達成してきている。「小さな政府」、「規制緩和」、「民営化」といったキャッチフレーズで社会保障予算を削減してきた一連の市場原理主義的 なイデオロギーと政策の誤りは明らかである。
 福祉を充実させたいなら、その前に経済を成長させ、パイを大きくしなければならない、といった議論は、戦後の日本で言い続けられてきた。その結 果が、今日の経済格差社会であり、福祉切り捨てと将来不安社会であり、年間、3万人もの自殺者を出す過労死社会である。「パイを大きくする」との議論は、 事実によって、その誤りが明らかになっている。
 衆議院選挙が間近になった2009年度予算にいたって、遅まきながら、社会保障関連予算の削減幅が2200億円から230億円に圧縮された。これが、21世紀の課題を追求する上での小さな第一歩になるかどうか、である。

5 マネーの地域循環型経済システムの確立

 現代日本のマネーは、全国の地方から東京一極集中へ、さらに東京からグローバルマーケットへ一方的に流れている。実体経済を身体に置き換えれ ば、マネーはその身体を流れる血液に匹敵するので、血液の行き渡らない経済は、壊死する。したがって、地域経済の金融ニーズに満遍なく対応できるマネーの 地域循環型システムが築かれていることが、地域経済の安定と発展にとって不可欠である。
 金融の自由化・国際化が進展するにつれて、地域経済が地盤沈下に陥っていったのはハッキリした背景が存在する。地域のなかで預金として集められたマネーが、その地域経済の発展のために利用されないで、外部へ流出しているからである。
 都道府県の銀行の預貸率(預金残高に対する貸出金残高の比率)を比較すると、金融機関の本店の集中する東京だけが100%を超えている。つま り、東京(金融機関の本店)は、都内(支店)から集まったマネーに加えて、都外(地方銀行と支店)からもマネーを集め、それを都内に貸し出している。さら に、高い利回りを求めて、欧米や中国などへのグローバルな投融資に振り向けている。
 他方、東京以外の地方の預貸率は、大阪が相対的に高く71.8%に達しているだけで、どの県も、40〜50%台の大幅に低い水準にある。東京以外の全国の地方は、地元で集めたマネーを外部に流出させ、地域経済の発展のために利用できていない現状にある(図表3)。
 このようなゆがんだマネー循環から脱出しないかぎり、地域経済の発展は展望できない。それだけでなく、「貿易黒字国」日本の対外輸出の黒字分も、国内に環流させ、内需拡大型のマネー循環を構築することである。
 アメリカの「地域再投資法(CRA)」(1977年)は、マネーの地域循環型システムの先行事例といえる。CRAは、その地域で集めたマネーは、その地域の金融ニーズを満たすために再投資することを明記しているからである。
 年々規制が強化されてきたCRAは、銀行など預金を扱う金融機関に対し、貸し出し、投資、その他の金融サービスについて、地元の低所得者や中小 企業のさまざまな金融ニーズに適切に対応する責任があることを明らかにしている。監督官庁は、4段階のCRAの評価基準に照らして、銀行など金融機関の取 り組みを格付評価し、その結果を公表している。「良好」以上の格付を受けない銀行は、金融ビジネスにも一定の制約が科されるので、貸し渋りなどの行為はで きなくなる。
 「地域再投資法(CRA)」のような規制のシステムのないわが国では、個人や中小企業を中心にした地域の金融ニーズが、銀行の貸し渋りにあって 満たされない現状にある。その結果、中小企業経営はますます困難になり、場合によっては、老舗といわれる中小企業も転廃業を余儀なくされ、地域経済の疲弊 と地盤沈下がつづいている。国民諸階層のニーズに直結した衣・食・住・環境・介護・福祉などの分野は、21世紀の成長産業の分野であり、地域社会に根付い た中小企業の活躍する分野でもあるが、金融ニーズが満たされないなら、それも不可能である。
 「金融ビッグバン」以後、わが国では、金融機関同士の合併・買収(M&A)も進展し、非効率とみなされる地域の店舗は、統廃合され、金融機関の 窓口すら地域から消滅してきている。郵政民営化によって、郵便局すら地域社会から姿を消し、特に過疎地といわれる地方の高齢者世帯には不都合が生じてい る。これでは、ますます過疎化が進み、首都圏と地方とのヒト・モノ・カネ全般の格差は拡大する一方である。
 地域社会から預金として集まったマネーが、東京などの大都市圏へ集中する現状を改革し、地域社会の活性化と地域経済の安定を実現するため、「地域再投資法(CRA)」のような地域循環型経済システムの整備が火急の課題になっている。

6 激変する21世紀の世界経済—G5からG20へのシフト

 すでに日本最大の貿易相手国が、アメリカから中国に交替したように、21世紀の世界経済は、中国、インドなどアジア経済圏を中核にして展開される新しい時代を迎える。世界経済地図は激変の渦中にある。
 とくに「世界の工場」中国のGDPは、すでにドイツを抜き、日本に次ぐ世界第3位に成長した。世界恐慌に陥り低迷しつづける資本主義諸国を前 に、年率7〜8%の成長を続ける中国経済は、世界の国々から「恐慌脱出の救世主」と見なされている。このままだと、中国のGDPは、早くて今年中に、遅く とも来年中に日本のGDPを抜き、中国は、わが国に変わって、世界第2位の経済大国の地位を獲得するようである。
 さらにアメリカを抜き、中国が世界最大の経済大国になる日は、これからほぼ20年後の2030年前後と予測されている(アメリカ大手金融機関, GoldmanSachs ,Global Economics Paper No:153,March 28 2007 ,予測)。すでに、中国の新車販売台数は、2009年上半期で600万台を超過し、アメリカを抜いて世界最大の市場になった。成長著しいBRICs(ブラ ジル・ロシア・インド・中国)諸国の市場規模は、日米両国の新車販売台数を超過しはじめた。
 というのも、新車や電化製品の購入など、豊かさを享受しはじめたBRICs諸国の中間層は、2007年現在で、日本の人口のほぼ5倍に当たる6 億3000万人に達し、中国だけでも2億7000万人にのぼる。中国などBRICs諸国の旺盛な経済成長と消費需要は、従来のG5主要国に変わる「世界の 市場」として、世界経済に大きな影響力を持ち始めたからである。
 こうした変化を反映して、この間のサミットのあり方も変わり、いわゆる先進主要5カ国の集ったG5から、新興国を含めたG20において、世界経 済の展望が語られる時代を迎えている。G5諸国のなかでも、カジノ型金融資本主義とは無縁のドイツやフランスの発言権が増大し、また中国やロシアのような 次世代の世界経済を担う諸国やその他の新興国の発言も目立ちはじめた。もはやアメリカ一国支配の構図は崩壊した。

7 東アジア経済連合と日本の選択—アメリカ一極支配後の世界

 世界の経済体制は、アメリカ一極支配後のあり方をめぐる激変の渦中にある。わが国は、いかなる選択を求められるのか。
 ハッキリしているのは、少子高齢社会の日本が、新興国のBRICs諸国と経済成長の規模やテンポを競うことはもはや不可能であり、無意味であ る。だとすれば、経済社会の内容・そのあり方が問われることになる。国際社会から注目され、日本のような国に住みたいと評価されるような国づくりが求めら れている。
 戦後日本経済の歩みを振り返って、そこから教訓を得ようとすれば、成長優先・利益優先の「企業国家」日本ではなく、またバブルの膨張と崩壊を繰り返す「カジノ型金融国家」でもない経済社会のあり方が求められている。
それは、すでに指摘してきたように、国内的には、マネーの地域循環型経済を確立しつつ、賃金所得を安定させ、将来不安を解消し、広範囲の国民諸階層の個人需要に根ざした介護・福祉・医療分野、環境や教育分野にヒト・モノ・カネを重点配分した社会を構築することであろう。
 対外的には、中国を初めとしたアジア諸国との経済連合の実現に求められよう。
世界のGDPは、21世紀初頭において、EU(欧州連合)とNAFTA(北米自由貿易協定)3国とアジア諸国の間で、ほぼ3等分されている。と くにアジアは、世界人口の49%を占め、1人当たりGDPではまだ欧米の8分の1に過ぎず、今後、無限の経済発展の余地を残している(図表4)。
 たしかにアジア諸国は、EUに結集したヨーロッパ諸国と比較して、政治経済体制のうえで複雑かつ多様である。だが、すでに東アジア11カ国(日本・中国・インド・ASEAN4・アジアNIEs)は、EUに匹敵する密接な経済交流を実現している。
 東アジアの域内貿易比率は、1980年代後半以降急上昇し、近年ではほぼ60%台にせまっている。これは、EU27ヵ国間の域内貿易比率に匹敵し、NAFTA参加国のアメリカ・カナダ・メキシコの域内貿易比率(40%台)を超過している。
 このような密接な経済交流を基礎に、EUを先行事例として、平和で、独立したアジア各国間の経済連合を立ち上げ、21世紀の世界経済の中心的な役割を発揮するなら、日本とアジア諸国には、明るい未来が切り開かれるにちがいない。(図表略)

(やまだ・ひろふみ)
(『税経新報』No.570, 2009年9月号)


LinkIcon

経済社会評論へ