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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

36. アベノミクスと経済社会の激動〜この国の未来をどう描くのか〜

 消費増税をめぐって、昨今のメディアはにぎわしい。来年度予算のサマーレビュー期に、アベノミクス(第2次安倍政権の政策)の評価が問われているからである。
だが、そこで論じられるのは、消費増税の前提とされる経済成長率が実現するかどうか、といったアベノミクスの枠内の議論が大半である。
 抜けているのは、目先の相場に一喜一憂するのではなく、アベノミクスの帰結と経済社会の深刻な問題を直視し、この国の未来をどう描くのか、という視点と政策論議である。
すでに走り出しているアベノミクスは、さまざまな問題を引き起こしている。

1 袋小路に入ったアベノミクス

 ●表面化したアベノミクスの問題点
 バブル崩壊後、ますます深刻化する国民生活と先の見えない閉塞感、さらにマニフェストを実現していれば少なくとも今より明るい社会が訪れたであろうと期待した政治がことごとく裏切られる中で、第2次安倍政権・アベノミクスが登場した。
 「危機突破内閣」「日本を取り戻す」「デフレ脱却」「経済成長」「財政出動」といった強いメッセージは、メディアを介して繰り返し報道された。
だが、ここに来て、第2次安倍政権・アベノミクスは、「危機突破内閣」というより、国民生活の危機をますます深刻化させ、しかも「取り戻した」のは、経済格差と軍拡志向の戦前の日本なのではないか、との問題点が表面化した。
 「デフレ脱却」とは、物価を上げることであり、1998年以来賃金が削減されつづけているなかで、食料品や燃料費など国民の生存に関わる物価が 上昇し、生活が一層困難になってきている。伸びた消費とは、株価上昇による資産増大の恩恵を享受する富裕層の消費であり、高級百貨店の高額グッズ(宝石・ 時計・バッグ・衣服・家具)、高級外車などであり、スーパーや小売業など、国民生活に直結した消費は低迷したままである。
 また、「経済成長」とは、大企業の売上げと利益の「成長」を意図したものであり、国民生活に密着した中小零細企業の安定と「成長」でなく、まし て賃金上昇と生活水準の向上とはまったく無縁であり、むしろそれを犠牲にした大企業・金融機関・富裕層のための「経済成長」であった。
 すでに日本の貧困率は、OECD諸国の中でもワースト4の位置にある。戦後の一時期に喧伝された「1億総中流」などといった国民感情は、跡形もなく消え去っている。世界で3番目の経済大国が、貧困率で世界のトップレベルにあることは決して無視できる事柄ではない。
 今後10年で200兆円もの「財政出動」とは、再び三度ムダな公共事業の時代を復活させたことであり、その財源を調達するために日銀信用を無制限に動員し、国債の大増発=政府の借金の山をさらに高く築き上げ、国民を「1億総債務者」に転落させることであった。
 ●的はずれの異次元金融緩和政策
 アベノミクスの3本の矢のうちの鏑矢は、日本銀行による「異次元の金融緩和政策」である。発券銀行の日銀が、経済界に無制限のマネーを供給し、 溢れかえるマネーによって物価を2%押し上げるまで、どんなことでもやる(これがアベノミクスの「デフレ脱却」戦略)、と黒田日銀新総裁は、世界に向かっ て宣言した。
 歴史的には、インフレ物価高を阻止する「通貨の番人」「物価の番人」の役割を発揮してきた中央銀行が、みずから物価を引き上げるためにどんなことでもやる、といった真逆の金融政策を宣言したことになる。独立性を堅持した中央銀行としての日銀は「死んだ」。
 この宣言通り、日銀は毎月7兆円ほどの国債を民間銀行から買い取り(国債買いオペレーション)、その買取代金を民間銀行に供給している。日銀か ら供給されたマネーをマネタリーベース、ハイパワードマネーなどという。民間銀行は、異次元金融緩和政策のもと、自由に使うことのできるマネーを毎月7兆 円ほど日銀から供給されている。
 だが、民間銀行が日銀から受け取ったこの溢れかえるマネーは、財・サービスを生産する企業部門には向かわず、実体経済の成長を実現するためのマネーとして機能していない。
大企業の場合は、経営に必要な資金を東京・ロンドン・ニューヨークなど、内外の金融市場から直接調達することができる(直接金融)。だが、中小企業の場合、それは不可能であり、銀行からの借り入れによって資金を調達する(間接金融)。
 したがって、銀行の手元に潤沢な資金を供給する金融緩和政策は、銀行の貸出を促進させる政策であり、本来、銀行借入に依存する中小企業にとって、メリットのある政策のはずであった。
 だが、銀行の中小企業への貸出はまったく伸びていない。異次元の金融緩和政策は、実体経済の担い手の中小企業への貸付に向かっておらず、まったくその役割を果たしていない。では一体、溢れかえるマネーはどこに行ったのか。
 ●国債投資に向かうマネー
 日銀から民間銀行に供給された溢れかえるマネーの多くは、政府の発行する国債に投資されている。企業や家計部門には供給されていない。その証拠 に、マネーサプライ(最近の指標ではマネーストック)はまったく伸びていない。それにかわって、異常に伸びているのは、銀行の国債投資と国債保有高であ る。
 溢れかえるマネーは、日銀—民間金融機関—政府予算の内部で循環し、日銀信用に依存した国債増発メカニズムとなって機能している(図表1)。
 安倍政権にとっては、一般会計予算の財源確保のために42兆8000億円(2013年度)の新規国債を発行するには、この巨額の国債を買ってく れて、財政資金を提供してくれる投資家を見つけなければならないが、日銀によって供給された溢れかえるマネーは、民間銀行の国債投資というかたちで財政資 金として使用され、安倍政権の予算を何とか成立させている。
 民間銀行にとっても、国債に投資することは、政府から定期的に国債の利子収入を受け取り、元本の償還資金を受け取ることができる。このような国債の元利金の受取は、銀行と保険会社の合計で、昨年度でほぼ13兆6000億円に達している。
 先行きが不透明であればあるほど、最も信用できる国債という金融商品に投資マネーが集中する。国債は、政府が発行するので、株式のように発行元が倒産し、紙屑になる心配はまったくない。景気に左右される企業への貸付によって、銀行が不良債権を抱えこむリスクも避けられる。
 それだけでなく、国債はもっとも格付の高い金融商品であり、年間の売買高が1京円に達する巨大な金融市場(国債流通市場)を形成している。わが国の3大メガバンクは、この国債流通市場における国債売買取引によって、数千億円の国債売買益を獲得している(図表2)。
 こうして、異次元金融緩和政策は、政府の国債発行基盤を拡大し、銀行などの金融機関の国債ビジネスを活性化させている。むしろ、この点が、異次元金融緩和政策の主要な目的であった、といえよう。
 ●株高・円安・物価高
 安倍政権と日銀の異次元金融緩和政策に、もっとも敏感に反応したのは、カジノ型金融資本主義をリードするヘッジファンドなどの外国人投資家であった。
 日本株を買い越し、株高を演出したのは、ヘッジファンドなどの外国人投資家による日本株投資である。逃げ足の速い外国人投資家は、異常な金融緩和が株価を上昇させるので、それを先読みし、株式を買い込み、一定の売買差益が期待できる時点で売買を繰り返している。
 溢れかえるマネーは、各種の金利を限りなく低くし、一時的な株高、円安状況を現出させた。実態経済の堅実な成長をともなわない株式ミニバブルは株式を金融資産として保有する富裕層の資産を増大させた。
 だが、異常な金融緩和がもたらした円安は、輸入物価を上昇させ、とくに食料品や家庭のエネルギー(ガソリン・灯油)価格の上昇を誘発し、家計部 門に過重な負担を強いている。物価の上昇は、とくに賃金が毎年引き下げられているなかで、家計を直撃し、多くの家庭で生活難をもたらしている。
 アベノミクスは、生活保護などの社会保障を切り捨て、さらに生活関連物資の価格を上昇させたので、早晩、消費者から見放されることになろう。
 ●国際社会から孤立する政権
 安倍政権のつまずきは国内に限らない。生活保護など社会保障関連予算を削減し、防衛予算を上積みする予算編成に加えて、憲法を改悪し、戦争のできる国にしようとする政権に対して、近隣のアジア諸国だけでなく欧米からも批判の声が強まっている。
 第2次世界大戦期の日本のアジア侵略を容認せず、日本軍による南京虐殺はなかった、従軍慰安婦のしくみに日本軍は関与していない、などなど、およそ国際的な常識と歴史認識から逸脱した政権と関係者の姿勢は、国際社会からの批判を招き、孤立を深めている。
 第2次大戦のA級戦犯を祀る靖国神社に政府関係者が参詣することは、ドイツに例えれば、メルケル政権の関係者がヒットラーのお墓に参詣すること と同じである、といったイギリスの著名な新聞(『フィナンシャル・タイムズ』)の警告は、国際社会の常識になっている。安倍政権は、国際社会との相互依存 が深まる現代において、ますます孤立する対外姿勢をとりつづけることで、日本の真の国益を損なっている。
 とくに中国や韓国など東アジア諸国との関係悪化は、日本経済にとっても無視できない。
 というのも、原材料・資源を持たない「経済大国」日本にとって対外貿易は不可避であり、「貿易立国」としての営みによって現在の経済的地位(GDP世界3位)が維持されている。
 「貿易立国」日本の最大の貿易相手国は、21世紀に入り、アメリカではなく、中国である。日本の輸出入総額に占める割合で見ると、2011年度現在、中国が最大で20.2%、を占め、2位のアメリカは12.1%にすぎない。次いで韓国が第3位(6.3%)である。
 経済圏で見ると、日本貿易に占める割合は、アジア経済圏が最大の50%%であり、ヨーロッパのEU経済圏やアメリカ経済圏(カナダ、メキシコを加えたNAFTA)はわずかに10%台にすぎない。アジア経済圏との貿易抜きの日本経済は、もはや存立し得ない時代がきている。
 しかもこの傾向はますます顕著になり、アジア諸国との経済的な結びつきは強まりこそすれ、弱まることはない。というのも、すでにアジア経済圏 は、世界のGDP合計の29%を占め、世界最大の経済圏として機能しはじめている。世界経済は、産業革命後ほぼ200年を経て、欧米中心からアジアを中心 に営まれる時代がきているからである。
 各国のシンクタンクや研究機関は、21世紀は、再びアジアの時代になった、との調査研究結果を公表している。というのも、第2次産業革命の成果 が浸透した1820年代までは、世界経済は、中国とインドのアジア2カ国で過半数のシェアを占める時代が長きにわたって続いてきた歴史があるからである。
 このようなミレニアム単位の歴史の流れに立っても、「貿易立国」日本がアジア諸国から孤立することの深刻な事態は、わが国の中長期的な将来像を 展望する上で、なんとしても回避しなければならいない事態にほかならない。安倍政権とアベノミクスの罪は重く、国内外ともに、完全に袋小路に入ってしまっ た。

2 経済成長と消費増税

 ●経済成長の中味が問題
 消費増税の前提となった経済成長率(年率で名目3%、実質2%の成長)をめぐって、政権内部でも意見が割れている。それは、経済成長の中味が問題だからである。
 内閣府の速報値(8月12日)によれば、2013年4〜6月期の実質成長率は、0.6%プラスであり、これを年率に換算すると2.6%(名目な ら2.9%)のプラス成長となる。この数値だけ取りあげれば、消費増税へのパスポートが発行されたとの見方も政権サイドから出てくる。
 だが、問題は経済成長を押し上げた中味である。この点については、内外から批判が出ている。
たとえば、安倍政権を支持するアメリカの代表的な経済紙『The Wall Street Journal』(WSJと略)は、次のように論評する。
 「(8月)12日に発表された成長率がエコノミストの予想に達しなかった大きな理由は、企業投資の不振 で、この部門は誇大にもてはやされてきた安倍晋三首相の経済再生計画の水準に達していない。投資の伸びのほとんどは、政府の刺激策と東日本大震災の復興支 出によるものだ。これはアベノミクスが約束したものではない。」(WSJ,2013.8.13)
 実際、経済成長率(年率換算)を押し上げたのは、①公共事業の大盤振る舞いと震災の復興支出という政府需要(プラス 7.3%)であるが、これは国債の増発・財政赤字を一層深刻化させた、②円安による大企業の輸出の好転(プラス12.5%)であるが、円安は大企業の業績 を好転させたが、国内物価を押し上げ、国民生活を困難にし、個人消費を冷え込ませる副作用をともなっている。
 底堅い持続的な経済成長の実現をめぐって、その最大の柱である個人消費を支える賃金はマイナスつづきであり、本格的な景気回復の鍵をにぎる企業の設備投資はマイナス0.4%、家計の住宅投資もマイナス1%を記録しつづけている。
 これでは、今後の持続的な経済成長は望むべくもなく、さらに深刻な不況への景気の反転も予測され、消費増税へのパスポートとはなりえない。
 ●「悪魔」のような消費税
 現政権が増税を予定している消費税そのものの問題点については、すでに本誌(『税経新報』2010年、No.576、4〜12ページ)でも、以下の5点が指摘されている。
すなわち、①生活必需品に課税され、その分高い買い物をさせられるので、生活・暮らし破壊税、②病気、事故、高齢化、失職などの事情をいっさい 考慮しないで課税されるので、福祉破壊税、③消費税を価格に転嫁できず、利益をけずって納税する多くの中小零細業者にとって、営業破壊税、④正社員をリス トラして派遣社員にすれば、企業の納税額は減るので、雇用破壊・リストラ促進税、⑤消費税を価格に転嫁できる大企業、株式売買、配当、利子は非課税なの で、大企業と富裕層優遇税、といった不公平きわまりない問題点を内包しているのが現行の消費税である。
 このようなさまざまな問題点をもつ「悪魔」(斎藤貴男・湖東京至『税が悪魔になるとき』新日本出版社)のような現行消費税は即刻廃止すべきであるが、仮に消費増税が強行された場合、現下の日本経済にどのような影響をもたらすのだろうか。
 ●消費増税で壊される景気と生活
 GDPの6割を占める家計部門・個人の消費を支える賃金が、1998年以降マイナスつづきであり、一部の富裕層を除いて、国民の消費不況がつづいている事態を好転させないかぎり、本格的な景気回復はありえない。
 近年の日本経済のこのような消費不況を放置したままで、消費増税に踏みだし、国民に増税分の13兆5000億円の負担増を強い、社会保険料の値 上げなどを加算すれば、総額20兆円もの負担を強いるならば、その結果は火を見るよりも明らかであり、日本経済を不況のどん底に陥れる。国民生活は一層困 難を増し、さまざまな社会問題をより深刻化させるにちがいない。
 日本経済にとって、今やるべきことは、賃金を上げ、社会保障を充実させて国民生活に安心を与え、安定した雇用環境を整備することである。その財源は、十分ある。大手企業の中に設備投資にも、賃上げにも使われないで眠り込んでいる250兆円ほどの内部留保金である。

3 「政府債務大国」と財政再建

 ●1000兆円の債務と財政再建
 なぜ、繰り返し消費増税が強行されようとしているのか、それが次に問われる。
じつは、日本の政府債務の累積額は、諸外国と比較しても、歴史的に見ても、未体験ゾーンに入り、最悪の事態に陥っている(図表3 )。
 自国の経済規模の2倍を上回る政府債務(1107兆1369億円-2013年度末)を抱えた国は、主要国では日本だけである。この政府債務の返済は、最終的には国民の税金によって行われることになる。
一般会計予算の24%を占める「国債費」(2013年度で22兆2415億円)とは、累積した国債の利子(9兆9027億円)と元本(12兆3388億円)の返済費用にほかならない。
 立場を変えれば、政府に財政資金を貸した政府の債権者(国債投資家・保有者)たちは、毎年度予算の24%を国債投資の見返りに、政府から受け取っていることになる。政府を相手にした国債ビジネスが展開されている。
 この国債ビジネスを継続していくためには、危険水域にある財政赤字を少しでも縮小できるように、消費増税などの新しい財源を求めつづけることになる。
 政府の債権者=国債保有者の利益を擁護し、国債の値崩れと金利上昇を回避するために、消費増税と超金融緩和政策が繰り返される。
 「国際通貨基金(IMF)は先週、15年までに消費税率を倍の10%にまで段階的に引き上げる計画を推進するよう日 本に警告した。そうしなければ、円建ての債券市場に対する投資家の信認が失われ、長期的な借り入れコストが上昇しかねないと警鐘を鳴らした。」 (WSJ,2013.8.12)
 時々の政権も、財政再建目標を立て、財政赤字の削減を掲げたが、ことごとく失敗してきた。(図表4)選挙での議席と政権維持に直結しない財政赤字の削減は、はじめからやる気がないからである。困難な問題は、先送りされる。アベノミクスも例外ではない。
 ●財政破綻のシナリオ
 このような事態はいつまでもつづかない。では、どのような問題が発生するか、これも、こうした問題に最も精通したアメリカの代表的な新聞論調(WSJ)を紹介しよう。
 「(日本財政の)破局シナリオはこうなるはずだ。日本の政府債務は経済規模の2.5倍で、他のどの主要国よりもはるかに大きい。投資家はこれまで、日本国債を購入、つまり超低金利で日本政府に貸し出し続け、政府による債務返済を容易にしてきた。
 しかし成長が実現しなければ、投資家は日本政府の返済能力を疑問視しし出すかもしれない。IMFの主任エコノミス ト、オリビエ・ブランシャール氏は 今月執筆した論文で、「リスクは、投資家が債務の持続性について懸念し、もっと高い金利を求めることだ」とし、「そうなれば、日本は債務の持続性維持が難 しくなる」と警告した。
 デフォルト(債務不履行)を回避するため、日本政府は中央銀行の日銀に対し、国債購入を続けるよう圧力を掛けるかも しれない。これはハイパーイン フレを引き起こしかねないプロセスだ。日本の生活水準の急低下、銀行危機、そして金利の急上昇が重なれば、アジア地域全体に影響が波及し、既にぜい弱な世 界経済に打撃になるだろう。
 IMFのシフ氏は「(日本国債)利回りが大幅に上昇すれば、世界的に重大な影響があるだろう」と述べ、「それは潜在的に世界経済に相当大きく影響するだろう」と語った。
 確かに、エコノミストたちは長年、日本の債務は持続不可能だと警告してきた。これまでのところ、投資家はこの警告に肩をすくめるだけだった。これは、貯蓄性向の高い日本国民自身によって国債の95%が銀行、保険会社、年金基金を通じて保有されていることが主因だ。
 しかし、将来のある時点で、国内の国債市場は飽和状態になり、新規国債がもっと移り気な外国投資家によって買われなければならなくなろう。
 3、4年後には、日本のベビーブーマー(団塊の世代)が引退するにつれて、世帯の貯蓄残高は低下するだろう。
マネッタ氏は「彼らがその時までに問題を解決しないと、非常に難しい状況に陥るだろう。世帯の貯蓄に支えられてきた国債に対する自然需要が蒸発し始めるからだ」(WSJ,2013.7.29)、と警告している。
 ●「債務管理型国家」の構想
 地方債など地方自治体の公的な債務を含めれば、日本の政府債務の累積額は、国民1人あたりほぼ1000万円の返済額となる。このような巨額の政 府債務の返済は、もはや「不可能」(神野直彦・金子勝『財政崩壊を食い止める』(岩波書店、2000年11月、「はじめに」)である。
 では、どうするか。消費税率を30〜40%に上げて、歳入増を図ったり、社会保障関連予算をばっさり切って、歳出削減をすることも不可能であ る。その答えは、「これ以上、財政赤字を増やさないが、すぐには財政赤字も返さないという政策である。つまり、一種の債務「凍結」に近い状態を作り出し、 時期を限定せずに長期間で財政赤字を返済していくのだ。」(同著、42ページ)。社会経済にとって不可欠の財政の基本的な役割を維持しつつ、長期的な展望 のもとに、債務の償還を実現していくことであろう。
 たとえば、国債の元本については、返済せず、国債保有者に永久債として保有してもらう、利子についてはこのまま返済する、といった大胆な国債償還計画を実行する「債務管理型国家」を構想し、実現することであろう。
この「債務管理型国家」の最大の目的は、国民への重税とハイパーインフレを回避することである。第一大戦後のドイツや第二次大戦後の日本の歴史的な教訓がいま問われている。

(やまだ・ひろふみ)
(『税経新報』No.614, 2013年9月号,図表省略)


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