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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

42. 安倍政権下で活発化する金融ビジネス

第1回 ぬれ手で粟の国債売買

 アベノミクスは、株式バブルや国債バブルを発生させ、内外の金融機関と投資家に、巨額の利益を提供しています。

  1京円の取引
 アベノミクスの異次元金融緩和政策によって供給される過剰なマネーは、不況脱出の要となる国民生活や地域経済に向かわず、国債や株式などの証券市場に流入し、バブルを発生させ、ぬれ手で粟のマネーゲームを横行させています。
 国債の売買高は1・2京円という天文学的な規模に達しました。株式の売買高は約3000兆円ですから、その4倍の売買取引が行われていることになります(いずれも、2014年度の現物・先物の合計金額)。
 近年、経済が金融化し、さらに金融が証券化すると、株式や国債などの価格変動にビジネスチャンスを見いだす取引が活発になりました。とくに政府が後ろ楯になる国債市場は、金融機関や投資家にとって、願ってもない大口のマネーゲームの舞台になっています。
 なぜこれほどまで国債市場が膨張するのでしょうか。その背景はつぎのようです。
 第1に、国債は、政府が発行しますから、株式のように、発行元の会社が倒産して紙くずになるリスクはまったくありません。したがって、最も安心して購入できる金融商品であり、投資物件です。
 政府は、どんなに景気が悪化しても、税金に支えられ、国債の利子を遅延なく年2回支払い、元本も全額償還します。私たちの支払う税金は、景気が悪くても、生活が苦しくても、安くしてもらえません。この安定した税収を支えに、国債の利子と元本が支払われます。本年度は、一般会計から、約23兆円が国債所有者(最大の所有者は民間金融機関)に、支払われました。
 第2に、発行額が巨額の国債という金融商品は、数兆円という大口の投資マネーを運用するのに、最適な市場だからです。
 国債の発行残高は、日本のGDP(国内総生産)の2倍になり、900兆円に達しました。異次元金融緩和政策に支えられ、国債が増発されることは、金融機関や投資家サイドの手持ちのマネーに、新たな有効な投資物件と市場を提供します。
 とくに先行き不透明な低成長下、国債は、内外の金融機関や投資家(ヘッジファンド、政府系ファンド、機関投資家など)の資金運用の受け皿になり、活発な売買取引が展開され、1京円を超す巨大市場になりました。

  大銀行に巨利
 1京円の国債売買市場から巨額の利益(国債売買益)を得ているのは、三菱UFJ・三井住友・みずほ、の3大フィナンシャル・グループです。3グループの国債売買益の合計額は年間1000億円を超え、重要な収益源泉になっています。この利益は実体経済の成長とは無関係のマネーゲームによるものです。
 「世界で1番企業が活動しやすい国」をめざす安倍政権は、大盤振る舞いする「景気対策」の財源調達のため国債を増発し、財政赤字と国民負担を深刻化させています。
 国債の発行は税金の先取り消費であり、最終的に税金で返済されます。国債が累積してくると、国債投資家(所有者)への国債の元利金の支払いが増大していきます。その結果、国民生活関連予算が削減され、消費税率の引き上げが繰り返される、といった国民の「1億総債務者」への転落をどう回避するのか、応能負担をどう実現するか、それが問われています。

第2回 民営化株は「金鉱脈」

 安倍政権下で、郵政民営化が再稼働し、11月4日、郵政民営化株式の最初の売り出しが実施されます。財務省の皮算用では、以後何回か実施する株式売出によって、約10兆円の株式売却収入金をもくろんでいるようです。

  郵政で10兆円
 10兆円といえば、消費税5%分で国庫に納入された税収額に匹敵します。もし、増税というやり方で10兆円を調達すると、国民の反発は避けられませんが、国有資産の郵政事業を民営化し、その株式を売却して集めるなら、目先の国民負担を避け、反発を抑えられる、と判断しています。
 各国で民営化株式の売り出しが盛んになったのは、財政赤字が深刻化し、新自由主義・市場原理主義の「小さな政府」が台頭してきた1980年代後半以降でした。社会保障や福祉を敵視した米国のレーガン、英国のサッチャー、日本の中曽根各政権のもとで、世界的に民営化が加速していきます。
 民営化株式の売り出しが行われる背景は次のようなことです。
 第1に、財政赤字に悩む政府が、国民の反発をともなう増税というやり方を避けながら、新しい財源を獲得することです。
わが国では、当時の日本電信電話公社を民営化(株式会社NTT)し、1987〜88年にかけ3回実施され、約10兆円を調達したNTT株式の売出です。この10兆円のほとんどは、枯渇していた国債の償還財源に繰り入れられました。
 郵政民営化株式の場合、売却収入金合計のうち、4兆円分は、東日本大震災の復興財源とする計画です。
 株式売却収入金の多少は、日経平均株価の水準に左右されるため、多額の株式売却収入金を求める安倍政権と財務省は、日本銀行を巻き込んだ超金融緩和政策、年金積立金の株式投資の増額など、多様な株価つり上げ策を展開しています。

 大口の手数料
 第2に、郵政民営化株式の売出は、内外の証券会社に、国家相手の大口の株式ビジネスを提供します。株式は、アジア・アメリカ・ヨーロッパで販売され、売出人の財務省は、内外の11社を主幹事証券とし、なかでも野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、アメリカのゴールドマン・サックス、JPモルガンの4社を中心となるグローバルコーディネーター(証券取扱業務を担う主幹事証券会社の中の中核となる会社)に指名しました。証券会社全体に支払われる初回の引受手数料は、245億円に達するようです。
 その後も、証券会社は株式の売出のたび、手数料を獲得します。NTT株式の場合は3000億円を越える手数料を獲得したようです。証券会社は、株式の売買市場でも、各種の手数料を獲得できます。大型の民営化株式の売出は、各国の証券会社にとって、株式ビジネスを活性化する「金鉱脈」になっています。
 株式の売出は、証券会社と株式を購入する投資家の意向に沿うことで実現されます。投資家の目的は利益の追求にあります。株式市場に依存した財政資金の調達は、投資家の利益を反映する政策を要望され、また株価に連動する不安定な財政を余儀なくされます。
 実体経済の低成長下で、株式バブルを発生させている安倍政権は、民営化株式の売却収入金をもくろむ政府・財務省と、株式の引受、売出、売買などの株式ビジネスから利益を得ようとする内外の証券会社と投資家の利益に貢献しています。
 民営化された郵政事業では市場原理主義が浸透し、リストラとコスト削減が断行され、高い株価と配当金が求められます。これは利用者の国民に、高い手数料負担、地方の小規模郵便局の閉鎖を招いています。

第3回 年金使い株価つり上げ

 経済成長と不況脱出に失敗した安倍政権は、株高を求める大企業・海外投資家・富裕層の期待をつなぎとめるため、さまざまな株価つり上げ策を繰り出しています。
 第1に、安倍政権の異次元金融緩和政策は、国債市場だけでなく、株式市場にも日銀マネーを大量に供給しています。日銀は、株式市場にマネーを供給する株価指数連動型上場投資信託(ETF)を、年間約3兆円も買い入れ、株価つり上げ策を実施しています。これは、中央銀行による株価操作の疑いがもたれています。
 しかし、日銀の株価つり上げ策には限界があります。株価に連動するハイリスク商品のETFが日銀のバランスシート(貸借対照表)に累積(約6兆円)すると、中央銀行と日本円に対する信認を毀損(きそん)します。国債の場合は、期限が来れば、政府が100%償還してくれますが、ETFの場合は、日銀が市場で売却しなくてはバランスシートからリスク資産を消すことができません。日銀が大量のETFを売りに出せば、株価は暴落してしまいます。

  株運用を拡大
 そこで、第2に、株価頼みの安倍政権が目をつけたのは、国民の年金積立金です。年金積立金は、インフレとも無縁の長期貯蓄性資金です。資金規模も巨額であり、大口の株式需要を発生させ、長期間にわたって、株価をつり上げることができるからです。
 2014年10月、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用委員会は、137兆4769億円の積立金運用の基本ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)を見直し、リスク資産の株式への運用割合を、国内外ともに従来の12%から25%へ大幅にアップしました。
 この見直しによって、国内株式市場へ投入される年金マネーは17兆8720億円ほど増額されるので、株式へ大口の需要が発生し、株価がつり上げられました。
 事実、2015年3月末現在で、国内株式への年金積立金の運用割合は、すでに22%まで上昇し、金額にして31兆60704億円の株式投資が行われています。これは、まさに、「クジラ」と言われる年金積立金などの株式投資マネーであり、株価のつり上げに大きく貢献しています。

  下落のリスク
 しかし、株価が暴落すると国民の老後の資金も枯渇します。
 実は、年金積立金を利用した株価つり上げ策は今に始まったことではありません。年金積立金は、1990年の株式バブル崩壊で、不良債権を抱えこんだ銀行を救済するために、利用されました。
 日経平均株価が1万8000円を下回ると、年金積立金が、日経平均株価を構成する225の銘柄を指値(さしね=株式の売買を委託する際に顧客が指定した希望の価格)で購入し、株価が上昇すると、すかさず銀行が保有株を売却し、株式の含み益を実現し、株式売却益を獲得しました。この売却益が不良債権の償却に使用されました。大手銀行21行の株式売却益は、1993年度、約3兆円でしたが、不良債権の償却額も同額の3兆円でした。
 株価つり上げ策に利用され、価格変動リスクのある株式を抱え込んだ年金は、株価が下落すると巨額の累積赤字(2002年度2兆5877億円、08年度9兆3481億円)を抱えこんでしまいました。
 その結果、将来の老後の暮らしすら脅かされることになりました。保険料率が引き上げられ、年金支給年齢は65歳に先延ばしされつつあります。

第4回 物作り日本壊す外人支配

 「株式会社ニッポン」の最大株主は、いまや外国人投資家です。その所有比率は、発行済み日本株の31・7%(2014年度)に達し、日本の金融機関(27・4%)や企業(21・3%)の所有比率を上回りました。しかも、外国人投資家のターゲットは、日本の代表的な企業や金融機関の株式です。経団連役員の出身母体である大企業や金融機関の株式の30%台は、外国人投資家に保有されています。
 最大株主が誰になるかは、企業経営のあり方、ひいては経済社会のあり方に大きな影響を与えます。
 財閥の持ち株会社が解体された戦後日本の最大株主は個人株主でした。高度経済成長期をへて、金融機関と企業との間で株式の相互持ち合いが進展し、6大企業集団の結束と経済支配が強化されると、最大株主は金融機関になりました。
 しかし、1990年代後半のアメリカ主導のビッグバン改革によって、日本の金融開国とアメリカ型金融経済システム(「カジノ型金融資本主義」)が浸透すると、外国人投資家の対日投資も活発化し、その流れは安倍政権下で加速します。
 その結果、企業経営のあり方も変容してきました。

  株主を最優先
 第1に、外国人投資家は、「物言う株主」(アクティビスト)として、株主総会で企業経営のあり方について積極的に発言し、終身雇用や年功序列といった日本的経営を非効率的だとして退け、ROE(株主資本利益率)を最大化する経営を要求します。
 企業利潤の配分では、株主への配当金と役員報酬を増やすために、賃金が削減されます。6200万人の働く日本国民に成果主義と競争原理が強要され、労働条件が悪化し、貧困と格差が拡大していきます。最近の日本の貧困率(16・1%)はOECD諸国の中でもトップグループになった「貧困大国ニッポン」を象徴しています。
 このような野蛮な資本主義的経営は、利潤追求を最優先する日本の大企業や金融機関の望むところでもあり、賃金を削減し、非正規雇用を拡大し、株主への配当金と経営者の報酬、企業の内部留保金などが増大しました。
 株主への配当金や役員報酬など、短期的な目前の利益を優先するようになると、品質のよいものづくりに不可欠の長期的な設備投資が停滞します。これは、「モノづくり大国ニッポン」の崩壊をもたらします。

  カジノ型市場
 第2に、株式売買市場の主役も外国人投資家になりました。株式売買高の60〜70%は、ファンドや欧米の大口投資家などの外国人投資家が占めています。ウォール街経由でやってきた外国人投資家は、元本が保証される安全な預貯金を選好する日本人の個人金融資産を、株式や債券など価格変動リスクにさらされるアメリカ型の投資の世界へ誘導しようとしています。
 情報通信技術を利用した現代の金融ビジネスは、最大の国際金融センターのアメリカ・ニューヨークを拠点に、コンピュータのグローバルなネットワークを利用し、国境を越えて展開されています。取引速度も1000分の1秒といった超高速取引(HFT)が株式売買高の60%台のシェアを占めています。日経平均株価すら、わずか数分で乱高下し、株式市場はまさに「カジノ型金融資本主義」を映し出し、マネーゲームの大舞台になっています。
 野蛮な資本主義を容認し、対米従属的な安倍政権は、ドイツとならぶ「モノづくり大国ニッポン」の崩壊を加速させています。

(「しんぶん赤旗」2015年11月3日〜6日)


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