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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

56. アベノミクスの失政と異次元の負の遺産


はじめに

 安倍政権の掲げた政策目標はことごとく未達成となり、刀折れ、矢尽きたアベノミクスだが、3割の得票で7割の議席を独占する小選挙区制と、「北朝鮮のおかげ」(麻生副総理)、さらには野党内部からの分断などによって、衆議院で過半の議席を獲得してしまった。
 だが、このことは、これまでの政策=アベノミクスが国民に支持されたからではない。それは、世論調査で、内閣への不支持が支持を上回っていることからもわかる。
 とはいえ、アベノミクスが再稼働した今、やらなければならないことは、この5年間のアベノミクスの失政と積み上げた異次元の負の遺産を検証しておくことであろう。

Ⅰ. 異次元金融緩和と「官製ブル」

 周知のように、アベノミクスは、「金融緩和」、「財政出動」、「成長戦略」の3本の矢から成り立っていた。なかでも第1の矢の金融緩和こそアベノミクスの鏑矢であった。
 世界がビックリしたのは、歴史上例を見ない異次元の金融緩和に打って出たからである。なにが異次元かと言えば、1つは、実体経済が必要とする通貨量をはるかに超えて、日本銀行にかつてないほど過大な通貨を供給させたことであり、もう1つは、株価を吊り上げるために、日銀という中央銀行が民間企業の株式を購入するという禁じ手を採用したことである。
 ジャブジャブのマネーを供給する異次元金融緩和政策を断行できたのは、安倍首相が古くからのお友達の大藏官僚の黒田東彦氏を日銀総裁に大抜擢し、アベノミクスにとって、日銀をいわば「金庫」として利用する体制を築いたからであった。
 異次元金融緩和政策とは、株高などの見せかけの「景気回復」を演出するバブルマネーの供給政策であった。安倍政権下の5年間の実質経済成長率の年平均はわずか1.1%にすぎず、「成長戦略」が破綻しているのに、日経平均株価だけ1万円前後から2万円前後の水準へと、200%も暴騰する株式の「官製バブル」を引き起こした。
 大企業も、金融機関も、富裕層も、内外の投資家も、異次元金融緩和に牽引される株式の官製バブルにわき上がり、保有する株式資産を倍増させ、決算期が来ると、戦後最高の利益を記録した。値上がりした保有株の一部を売却するだけで、濡れ手に粟の株式売却益を獲得したからでもある。
 だが、株式バブルとは無縁の多数の国民、中小企業者は、安倍政権の5年間で、消費税率を5%から8%に引き上げられ、実質賃金を減らし、年金の受取額を減らし、倒産件数を増やす深刻な不況のなかに置き去りにされた。
 アベノミクスがターゲットにした物価下落・デフレーションの真因は、日本経済にとって通貨の供給量が不足したからではなかったからである。そうではなく、1997年以来の持続的な賃金削減・リストラと租税・社会保障負担の増大などから、国民の可処分所得が低下し、深刻な消費不況に陥っていることが物価下落・デフレの真因にほかならない。
 したがって、日銀を利用してどんなに通貨の供給量を増やしても、安倍政権が目標として掲げた2%の物価上昇もデフレ脱却も、5年たったいまなお未達成のままであることがそれを証明している。
 消費不況を放置したまま過大な通貨供給が実施されると、そのジャブジャブのマネーが向かう先は、濡れ手に粟の手っ取り早い儲けにありつける株式や国債などの証券売買市場にほかならない。その結果、実体経済は低迷しているのに、株価や国債価格がうなぎのぼりに上昇する「官製バブル」が発生し、今日に至っている。

Ⅱ. 格差拡大と貧困問題の深刻化

 アベノミクスの真の目的は、5年後の今日から振り返ると、「官製バブル」を発生させ、大企業と富裕層をさらに潤してやることにあったのではないか、と推察できる。2%の物価目標やデフレ脱却とは、「官製バブル」を持続させ、日銀という馬を疾走させるための、馬の鼻先につけたニンジンだった、といえるようである。
 事実、安倍首相は、2013年2月の最初の施政方針演説で、「世界で1番企業が活躍しやすい国」をめざすと宣言していた。初めから企業重視の姿勢であり、国民の生活や権利の充実は念頭になかったわけである。
 アベノミクスが稼働し始めると、その施政方針は忠実に実施され、資本金10億円以上の大企業の経常利益や株主への配当金は1.4倍に増大した。賃金の支払いにも設備投資にも使われない大企業の内部留保金は安倍政権下で約60兆円も増加し、過去最高の406兆円に達している。また、野村総合研究所の調査によれば、アベノミクスの「官製バブル」のおかげで、純金融資産1億円以上を保有する富裕層の金融資産は、2011〜15年にかけて188兆円から272兆円へと、1.4倍に増大している。
 他方で、消費税率を上げ、社会保障費を削減し、国民の租税負担率・社会保障負担率を増大させたので、安倍政権下で国民負担率は過去最高の43.9%に達した。勤労世帯の実収入はマイナスになり、0.9倍に止まっている。貯蓄ゼロ世帯は、26%から30.9%に増大し、生活に余裕のない世帯が増大した。持つものと持たざるものとの資産格差は、安倍政権下で急速に拡大した。
 格差拡大だけでなく、貧困問題が深刻化した。貧困ラインと評価される年収122.5万円(月収で10.2万円)で生活する人の割合は15.6%であり、世界第3位の経済大国の現代日本では、6〜7人に一人の割合で貧困ラインの生活を余儀なくされている。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法が守られていない。年収200万円に満たない「働く貧困層」も増大している。
 こうした現状は深刻な事態を招いている。貧困世帯で育った子どもたちは、高等教育までの教育費の負担(平均で約1500万円)が困難なので、すぐに社会に出て、低賃金で不安定な仕事に就くことになり、親世代と同様の貧困世帯が再生産され、固定化される事態が発生している。

Ⅲ. 抱えこんだ異次元の負の遺産

 異次元金融緩和政策の通貨供給の仕組みは、銀行など民間金融機関が保有する国債という金融資産を、日本銀行が高値で大量に買い取ってやり、その買取代金を自由に使える通貨として供給するやり方(国債買いオペレーション)であった。
 日銀のバランスシートには買い取った国債が440兆円も累積し、民間金融機関はそれとほぼ同額の通貨を受け取り、さまざまな運用を展開する。日銀による国債買いオペレーションは年間100兆円前後の莫大な額に達したので、民間金融機関にとっては保有する国債を高値で買ってもらうことで国債売却益も獲得できた。
 また安倍政権にとっては、第2の矢の財政出動ということで、大規模公共事業を復活させ、その財源は国債発行に依存したが、日銀の国債大量買いオペにより、国債をほぼ無制限に増発できた。アベノミクスの5年間で新しく発行された国債総額は192兆円に達した。その結果、将来返済を迫られる国債などの政府債務は、日本経済(GDP)の2倍を超える1223兆円に達した。
 過去最大となる国債などの政府債務は、消費税増税、社会保障予算の削減、国民負担の増大圧力となって、国民と中小企業者にのしかかっている。
だが、国民1人あたりほぼ1000万円の政府債務は、ほとんど返済不可能ともいうべき負の遺産である。返済にあたっては、国民にツケを回すのではなく、負担能力のある大企業・金融機関・富裕層を対象にした長期的な債務返済プログラムの作成が不可欠である。
 株価や国債価格の官製バブルは、いつ崩壊するかわからない。バブル崩壊はすでにカウントダウンに入ったと、内外の多くのエコノミストたちも主張しはじめている。
 株式バブルの崩壊は株式を購入した日銀だけでなく、とくに大量の株式を保有する公的な年金積立金(GPIF)に損失が発生し、年金給付金の減額など国民生活を困難にする問題点が表面化する。
 また、国債価格の暴落は、国債の最大の保有者になった日銀のバランスシートを直撃し、日本銀行券=円に対する信用を失墜させ、急激な円安を招き、輸入物価と国内物価を急上昇させ、日本経済と国民生活を破壊する。

Ⅳ. ハイパーインフレのリスク

 アベノミクスのこのような異次元の負の遺産は、安倍政権中枢でも無視できなくなっている。彼らが注目した1223兆円の負の遺産の「解消」方法とは、ハイパーインフレを起こして強制的に「解消」する方法である。この方法はすでに終戦直後に採用され、戦時下で累積した軍事国債という政府債務を「解消」した先行事例がある。
 海外の大物頼みは安倍政権の常套手段である。2017年に、ヘリコプター・ベンのあだ名をもつ米連邦準備制度理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長が招かれた。さらに、金融政策でインフレ目標が達成できなくとも財政政策で達成できるというノーベル経済学賞受賞者のクリストファー・シムズ・米プリンストン大学教授が招かれ、国内の各種メディアで講演やインタビューの機会が与えられている。2人に共通するのは、インフレを起こすには、ヘリコプターからマネーをばらまくように、財政ルートから現金をばらまいたらインフレを起こせる、と主張していることである。
 現在1223兆円の政府債務も、10倍のインフレ物価高が発生すれば、実質的な返済負担は10分の1なるからである。というのも、政府債務の金額は固定されているので、インフレによる債務者利得、つまり10倍のインフレが起こると通貨の価値は10分の1に減価するので、返済額の実質価値は10分の1に目減りする、という債務者利得が発生するからである。
 インフレによる政府債務の「解消」は、終戦直後の日本だけでなく、政府債務危機に陥った世界各国に先行事例がある。重税や経済成長で政府債務を返済した例はむしろ少ない。日本の場合、終戦直後、財政ルートからかつての軍需企業を中心に巨額の資金が供給され、昭和20年代の5〜6年間で300倍ほどのインフレが発生し、戦時下で増発された軍事国債という政府債務が「解消」された。有名なドイツのハイパーインフレは1914年から23年にかけて1兆倍のインフレを記録し、通貨価値がほぼゼロになり、マルク紙幣は冬場の暖房のためストーブで燃やされた。
 このようなやり方は、政府債務のツケをすべて国民に押しつける生活破壊型の政府債務の「解消」策である。終戦直後、ハイパーインフレによって政府債務が解消される一方、国民生活は破壊された。国民は、竹の子の皮を一枚一枚剥ぐように衣類や家財などを少しずつ売りながら食いつなぐ「竹の子生活」を強いられた。それはそうである。当時の東京の消費者物価では、いま500円のラーメンが5年には15万円になるのだから、まともな生活などできる由もない。こんな事態を再現させてはならない。

Ⅴ. 平和を脅かす壊憲と軍拡経済

 最後に、アベノミクスの衣の下の鎧について指摘しておかなければならない。
 本来、「憲法尊重擁護の義務」(憲法第99条)を全うしなければならない総理大臣が、率先して憲法を壊す行動に邁進する姿は、尋常ではない。
しかも、壊憲の中心論点が「戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認」(憲法第9条)にあるとあっては、この国の平和と国民の生命を脅かす戦後最悪の政権といってよい。
 さらに看過できないのは、壊憲の背景と動機である。それは戦争法の強行採決の背景から明らかである。すなわち、第1に、戦争法の骨格は、アメリカの「第3次アーミテージ・ナイ報告書(「“The U.S.-Japan Alliance:Anchoring Stability in Asia”」)」のコピーといえる代物であった。財政赤字と世論の反対に直面した好戦国家アメリカが、日本の防衛予算と自衛隊の武力を米軍のもとに組み込むための戦争法であった。
 第2に、長期化する経済不況から脱出するため、歴代政権が禁止していた世界の武器市場への参入である。旧財閥系の三菱重工を頂点とする軍需産業、新設された防衛装備庁、さらに経済産業省・政府が一体になって、ほぼ180兆円におよぶ世界の軍事予算の分捕り合戦に参入し始めた。安倍首相は先頭に立って、日本製の武器と原発などを訪問先の諸外国に売り込んでいる。
 このような内外の圧力を背景に強行採決された戦争法は、共謀罪や秘密保護法と相まって、この国の人権・民主主義・平和・国民の生命を脅かしつつある。
 戦後70年、軍需産業ではなく、平和産業としての発展によって、世界第3位の経済大国を実現した平和国家日本の輝かしい歴史的教訓が、いま、根本から問われている。

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