43. 年金積立金8兆円損失
国民年金や厚生年金など、わたしたちの老後の生活を支える年金積立金は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)で管理運用されています。先月、GPIFは、今年7〜9月期の年金積立金の運用実績が7兆8899億円の損失だったと発表しました。
8兆円に達する損失額は、四半期では過去最大であり、計算上、この3ヶ月で、ほぼ600万世帯の1年間分の国民年金受給額がなくなったことになります。なぜ、このような巨額損失が出たのでしょうか。
第1に、年金積立金を利用して大規模な株式投資が行われていたからです。損失発生前のGPIFの株式保有額は、国内株式32・9兆円、外国株式31・4兆円でした。価格変動リスクのある株式は、予測不能の暴落の歴史でした。そのようなリスク資産の株式を年金積立金総額141・1兆円の45・7%に達する64・3兆円も保有していたこと自体大きな問題です。
第2に、損失が発生した今年7〜9月期は、中国株式のバブル崩壊に端を発した世界同時株安が発生しました。日経平均株価でみると、安倍政権のなりふり構わぬ株価対策で、直前まで2万円台にあった株価が1万6000円台に暴落しました。GPIFの保有していた64・3兆円の株式は、その暴落の影響に直撃されたからです。損失の内訳をみると、国内株式で4兆3154億円の損失、外国株式で3兆6552億円の損失が発生しています。
GPIFの役員は、今期は損失が出たが、中長期的には株価はまた上昇するので、損失分は穴埋めできる、と記者会見で応対していました。これは答えになっていません。2008年のリーマンショックでは、世界の株価はほぼ半額にまで大暴落しました。老後の生活費が株価に振り回されてはたまりません。
そもそも年金積立金にこのような危険な賭けをさせ、巨額損失を発生させているのは、安倍政権です。
第1に、安倍政権は、4000万人の年金生活者だけでなく国民に承認を得ず、国会で審議することなく、独断で、年金積立金の株式での運用割合を拡大しました。従来は、安全性を重視し、株式での運用は、積立金の12%以内に止めておく措置が取られていました。この安全性の枠を取り払い、内外の株式への投資枠を25%まで拡大したのが安倍政権です。2014年10月から年金の株式投資が急拡大していきました。
第2に、3本の矢がことごとく折れた安倍政権は、ビッグマウスを駆使し、株高を求める大企業・海外投資家・富裕層の期待をつなぎとめ、株高を演出することで政権維持をもくろんでいます。経済成長どころか長引く不況下で株価が上がるはずはありません。そこで、政治の力によって株式市場に各種の資金を総動員し、「官製相場」を演出しています。
安倍政権のもとでの年金積立金の株式運用は、はじめから安全で確実な運用とは無縁であり、政権維持のための「官製相場」演出の手段として利用されています。株式市場関係者の間で、年金積立金は、株価が不振の時に数千億円単位の大口の株式購入で株価を吊り上げてくれる「クジラ」と呼ばれています。
年金は国民の財産であり、政権維持のための政治利用は許されません。まして、ウォール街を巻き込んだマネーゲームの世界に年金を投入することは、高齢者の生活と将来の年金受取をギャンブルの世界に投げ込むような行為です。
公的年金の「運用」にあたっては、理事会に決定権が集中するGPIFの体制を見直し、政府・厚労省・金融業界などの利害関係者から独立した委員会を設置すること、運用に失敗した場合の責任体制とリスク許容度を明確にすること、逐一国会への報告義務を課すこと、収益性よりも安全性を最優先すること、などの改革が必須です。
(「全国商工新聞」2015年12月21日)