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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

39. 暴走するアベノミクス

脅かされる生存権と平和

はじめに

 夏の高校野球を観ていたら、突然画面に、今年のGDPの年間成長率は、マイナス6.8%、とのNHK速報が流れた。これは、97年の消費税率引上げ後のマイナス3.5%と比較しても大きく、また東日本大震災時以来のマイナス成長である。
 これほどまでの成長率の大幅の落ち込みは、個人消費の深刻な落ち込みによるが、政権にとって想定外の落ち込みであり、「成長戦略」という3本目の矢がボキンと折れ、破綻がはじまったことを意味する。
 1本目の矢(異次元金融緩和)によって円安・物価高を招き、国民生活を困窮させ、2本目の矢(財政出動)によって従来型公共事業の大盤振る舞いを復活させ、財政赤字を深刻化させてきた。
 そのうえ、憲法を厳守すべき立場の政府が、閣議決定という異常な手段で、憲法第9条を空洞化させ、「戦争する国」に舵を切った。
 アベノミクス(第2次安倍政権)が始動してから1年8ヶ月ほどが経過し、ますますその危険かつ亡国的な性格を露呈させてきた。戦後史的に見ても、従来と異なるのは、この政権が国民の生存権と平和に直接的な脅威を与えはじめたことであろう。

1 崖っぷちにある日本の経済社会

  貧困・格差の拡大と固定化

 現代日本の経済社会は、戦後史的にも、崖っぷちともいえる深刻な事態に陥っている。その最大の特徴は、世界第3位の「経済大国」日本なのに、生活することすらままならない貧困・格差の拡大である。
 所得が低すぎて生活できず、保護を受けている生活保護受給者数は、国民全体がまだ貧しかった1960年代の水準(170万人)を大幅に上回り、戦後最多レベルの215万9千人(今年4月現在)に達している。経済大国の所得が公平に分配されていない。
 かつての「1億総中流」意識は解体され、年収200万円ほどの可処分所得者数が最大になり、かつ300〜600万円の中間所得層が激減する一方、1000〜2000万円の高所得層が幾分増えている。ただ、このレベルの高所得層は、病気、不慮の事故、失業などによって、すぐに中・低所得層に転落する。
 中間所得層の解体と低所得化は、企業社会の労働現場だけでなく、社会的にステータスが高い自由業でも進展している。たとえば総所得が200万円以下の弁護士の割合は25.1%(2012年)、500万円以下では42.3%に達している(『週刊東洋経済』2014.7.26)。中間所得層の解体は、社会に閉塞感をもたらし、主権者の声をか細くしている。
 安康なのは、政府の優遇措置を受ける大企業と1億円以上の純資産を保有する富裕層(265万人で)あり、この層は、内外において、保有資産をますます拡大している。
 日本の未来を担う子どもたちの貧困率(真ん中の所得世帯の半分を下回る世帯にいる17歳以下の子どもの割合)が、過去最悪の16.3%(厚生労働省「国民生活基礎調査」2013年)を記録した。貧しい家庭の子どもは、十分な教育も受けられずー進学就職で不利になりー高い所得の職に就けずーその子ども世代も再び貧困になる、といった「貧困の連鎖」が固定化する国に転落してしまった。
 子どもの貧困率(16.3%)が、はじめて一般世帯の貧困率(16.1%)を上回ったことは、この国の未来を一層暗いものにしている。
 こうした現状の改革を最優先の政策課題にすることが政府の役割にほかならないのに、アベノミクスの3本の矢は、まったく逆の方向を向いて放たれた。
 政府も、経済界も、憲法第25条(「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」)を守っていない。
 その結果、最近の日本の貧困率は、いわゆる「先進国クラブ」OECD34カ国の中で、底辺の30位台に張りつく「貧困・格差」大国に転落している。

  深刻化する財政赤字と貿易赤字

 崖っぷちにあるのは、オバマ政権下の財政赤字だけなく、日本の財政赤字こそより深刻である。
 主要国で政府債務残高が自国のGDPの2倍に達している国は日本だけであり、もはや返済不能の領域に達している。それなのに、アベノミクスは、毎年40兆円ほどの政府債務(新規国債発行高)を新たに積み上げ、財政破綻に拍車をかけている。そのうえ、法人税減税(1989—2013年度の累計で255兆円)をさらに推進し、富裕層の最高税率を引き下げ、歳入確保のための財源を枯渇させてきた。
 財政運営が、「公共事業」など政府需要に利殖を求める企業、さらに財政資金調達のために発行される国債という金融商品への投資家(内外の金融機関)サイドの利益を擁護しつづけた結果、今日の1000兆円という「政府債務大国」日本を招いてしまった。
 財政赤字だけなく、貿易収支の赤字も進展してきた。戦後長く続いた「貿易黒字国」日本は、2011年以来、貿易赤字国に転落し、その赤字幅は年々拡大してきている。
 というのも、メードインジャパン製品を大規模に輸出し、貿易黒字の稼ぎ頭であった大企業が、国内の生産を縮小させ、安価な人件費と海外需要を求めて、大挙して拠点を海外に移転した結果、国内産業が空洞化したからである。
 貿易黒字の稼ぎ頭だった3大自動車メーカーの海外生産比率(2013年度)でみると、トヨタ62%、ホンダ79%、日産80%である。大企業は日本国内よりも、その生産拠点を海外にシフトさせている。日産の国内生産比率はたった20%にすぎず、さらに海外移転を推進する経営方針である。
 グローバル企業による日本経済の空洞化と自己崩壊が始まっている。もはやグローバル企業は、本社だけ東京に置き、後は野となれ山となれといったビジネスを展開し、自国の国民生活の安定を破壊する存在になってしまった。
 国内工場やオフィスの閉鎖は、雇用機会も消滅させ、失業者を激増させた。他方で、対外進出した日本企業が進出先の国々で雇用する従業員数は、国内の完全失業者数のほぼ2倍の558万人(2012年度)に達している。
 国民生活の安定よりも、企業利益を優先する政府は、国を捨てて出て行く企業に何らの規制もせず、むしろODA(政府開発援助)などで援助してきた結果がこのような日本経済の自己崩壊といった事態を招いている。

  国際社会から孤立する日本

 靖国神社への参拝や非常識的な解釈改憲などの暴走で、安倍政権は国際社会から厳しい批判をあび、孤立を深めている。各国間の相互依存関係が深化した現代において、国際社会から孤立することは、その国の未来を閉じることでもある。
 安倍政権は、いまなおアメリカの「ドルと核の傘」に従属する、古く危険な対外関係の既得権益に浸っている。
 他方で、中国や韓国などアジアの近隣諸国との関係はいままでにないあつれきと緊張関係を築いてしまった。
 21世紀に入り、世界経済地図はまったく変わってしまった。2010年に日本のGDPが中国に抜かれたのは記憶に新しいが、2020年には、その中国がアメリカを抜き世界最大の経済大国になる、というのが欧米の研究機関の共通の認識になっている。
 中国経済の世界経済におけるプレゼンスは、日本の最大の貿易相手国がアメリカから中国に代わり、日中貿易額が日米貿易額のほぼ2倍に達していることからも十分うかがわれる。原料資源なき日本は、貿易立国でしか世界経済におけるプレゼンスを示すことができず、その最大の貿易相手国は中国である。またアジア経済圏との貿易は、日本貿易の過半数を占める時代がやってきた。アメリカ経済圏やEU経済圏の割合は、わずかに10%台にすぎない。
 18世紀の産業革命以来、欧米経済圏が世界経済を主導してきた時代から、21世に入るやその初頭から、日本と中国などアジア経済圏が世界経済で最大の割合を占める時代がきたというのに、その肝心のアジア経済圏で孤立したなら、日本経済の未来はなく、沈没することになろう。

2 亡国のアベノミクス

異次元金融緩和の罪

 「物価の番人」、「インフレ・ファイター」のはずの中央銀行(日銀)が、物価をつり上げ、インフレを起こそうとする前代未聞の「異次元金融緩和」政策に踏み出している。溢れかえるマネーは円安を招き、輸入物価を上昇させ、自給率が低く海外に依存する食料品やエネルギー(ガソリン・灯油)の価格が上昇し、賃金が毎年引き下げられているなかで、家計を直撃している。
 他方で、この「異次元金融緩和」政策によって、さまざまな便益を享受した勢力がいる。
日銀による大量マネーの供給を受けた銀行などの金融機関は、国債や株式などの金融商品への投資に精を出し、利子や配当金、売買差益などの金融的な収益を獲得している。国内の中小企業からの借入ニーズがあるにもかかわらず、より見返りの大きい海外への投融資にマネーを振り向ける一方、国内では毎年1万件を超える中小企業の倒産が続いている。
超金融緩和は、円安を招き、海外投資家の日本株投資を促進し、実体経済は低迷したままなのに、株式のミニバブルを発生させ、国内富裕層を含む株式保有層に株価の値上がり益をプレゼントした。マンションが買えるほどの高級外車が順番待ちの盛況を見せる一方、食料品の値上がりで、スーパーの食品売り場の売上げは低迷している。
「異次元金融緩和」は、日銀による大量国債の買いオペに依存するので、毎月3兆円ほどの国債を発行しなければ予算が組めなくなった政府にとって、日銀による間接的な国債引受ともいうべき国債の大増発メカニズムに助けられ、国債の増発をつづけている。だが、その帰結は、先進国では例をみない政府債務の累積であり、財政破綻のリスクを高めている。
 アベノミクスの1本目の矢である「異次元金融緩和」政策の恩恵は、銀行などの金融機関と富裕層に供与され、そのリスクは、6200万人の働く人々や高齢者、一般家計に転嫁されている。

財政出動と消費増税の罪

 世論の反発から無駄遣いの公共事業予算はここ数年減額されてきたのに、アベノミクスの2本目の矢である「財政出動」によって、大盤振る舞いが復活してしまった。
 政・官・財癒着の構造に支えられた大手ゼネコンを頂点にした公共事業の既得権層は息を吹き返した。だが、この既得権層のネットワークから洩れた全国の多数の中小零細企業へは十分な仕事が回ってゆかず、地域経済は疲弊したままである。
 安倍政権は、リストラ,賃金カット、非正社員化、年金給付金の引き下げなどにより、1世帯当たりの平均所得は、ピークであった1994年から2012年までで、664万円から537万円へと大幅に減り続けているのに、異次元金融緩和政策により物価をつり上げ、さらに追い打ちをかけるように消費税率を8%へ引き上げた。アベノミクスは、国民生活を破壊し、生存権を脅かす政権といえるであろう。

破綻済み「成長戦略」の罪

 アベノミクスの3本目の矢の「成長戦略」とは、大企業と富裕層の利益を最優先するところに特徴がある。
まず法人税をさらに引き下げることである。1984年時点の法人税率は43.3%であったが、以来、引き下げられ、とくに消費税が導入されて以後、引き下げは加速し、2012年には25.5%となり、アベノミクスは、この税率をさらに引き下げようとしている。1989年から2013年度の期間、法人税は累計255兆円が減税され、それを補うように消費税は282兆円の増税となった。大企業天国、家計は地獄の税制改正が進行している。
安倍政権が提出したが、反対が強く廃案になった労働者派遣法の改正案とは、企業が働き手を3年ごとに代えれば、どんな仕事にも、正社員でなく、低賃金の派遣社員を使用しつづけることができる、といった法案であった。さらに、正社員向けには、いわゆる「ホワイトカラーエグゼンプション」という賃金の支払い基準を、残業などの労働時間から成果によって判断し、実質的に残業代金の支払いを拒否できる法案である。労働者の権利と所得の大きな犠牲の上に、「企業が世界で一番活躍しやすい国」(安倍首相の記者会見)をめざしている。
あらたに「成長戦略」に組み込まれたのは、130兆円に達する国民の年金積立金の株式市場への運用割合を高めることである。年金にもっと多くの株式を購入させ、政府が進んで株式への新しい需要を創り出すことで、株価を高めに誘導する戦略である。アベノミクスは、株価重視政権である。株価のためなら、たとえ老後の生活費の年金積立金でも使ってしまおうとしている。だが、過去の実績が物語っているのは、株価が下落した場合、年金積立金に損失が発生し、それが年金給付額を引き下げ、給付年齢の引き上げをもたらす。
 アベノミクスは、すでに破綻が実証された古い「トリクル・ダウン」の経済観と「成長信仰」に取り憑かれている。
 大企業や富裕層が元気なれば、経済も活性化し、その滴が一般の勤労者や家庭にもポタポタと滴り落ちていき、その恩恵に浴することができる・・・、と。これは、大企業や富裕層にとってはまことにありがたい経済観だが、国民にとっては馬の鼻先に人参を付けて走らされるようなものである。どこまで走っても鼻先の人参はそのままぶら下がり食べることができないでいるうちに、利益追求を最優先する冷酷な資本主義の経済メカニズムは、経済社会における貧困・格差をますます拡大し、固定化する歴史を繰り返してきた。

金融バブルとウォール街の支配

 現代経済の特徴は、実体経済を示す世界各国のGDP合計額(2013年)が73兆9820億ドル(約7400兆円)に対して、金融資産の合計額は152兆ドル(1京5200兆円)と2倍に達している。この有り余る過剰マネーはストック・ベースなので、これに何倍かのレバレッジをかけて運用され、実際の過剰マネーの規模はさらに数十倍の大きさになり、利益を求め地球上を徘徊している。
 そのために、地球上では、どこかの国のなんらかの市場で、大きなバブルや小さなバブルの膨張と破裂が繰り返される。その度に、大口のマネーを運用するウォール街の金融機関やヘッジファンドなどの投資家は、コンピュータに組み込んだプログラム売買を駆使し、一瞬(1000分の1秒の高速取引)で巨額の金融収益を稼ぎ出し、地球的な規模の金融収奪を繰り返している。
 アベノミクスは、外国人投資家の利益を優遇し、このような「カジノ型」金融資本主義を受け入れている。年金積立金の運用機関として、ウォール街を代表するゴールドマン・サックス社、JPモルガン社などに、1社あたり2000〜4000億円の年金積立金を委託し、内外の株式投資などの高利回りの運用を期待しているようである。これは相場の変動によって巨額の損失も抱えこみかねないハイリスク=ハイリターンの運用に踏み込んだことである。
 老後の生活原資である年金積立金に求められているのは、もっとも安全・確実な長期運用にほかならない。日本国民の年金積立金を、内外の「カジノ型」金融資本主義の餌食にしてはならない。
 1996-2001年にかけて断行され、アメリカ型金融システムを日本に根付かせた金融ビッグバン以降、日本の金融・証券市場は激変した。外国人投資家による日本株保有比率は30.8%(2014年3月末)に達し、日本の最大株主になった。大企業や大手金融機関の株式も、その30〜40%は、外国人投資家が保有し、彼らは物言う株主として、株主総会で配当金の引き上げなどを主張する。東京株式市場の主役も、外国人投資家であり、売買高の60〜70%を占めている。
 これらの外国人投資家や株主は、より高い利回りと株の配当金を要求し、コストのかかる終身雇用などの日本的な経営と雇用環境を破壊し、法人税減税、ホワイトカラー・エクザンプション、日銀への追加緩和、消費税増税などを日本政府に要請してきた。
 アベノミクスは、このようなむき出しの資本主義ともいうべき外国人投資家や株主の要請を受け入れ、日本国民の生活と権利を侵害してきた。それだけではない。

3 「戦争する国」への暴走と原発再稼働

武器輸出解禁と経済の軍事化

 安倍政権は、今年の4月1日、「防衛装備移転3原則」を閣議決定し、憲法9条に則して武器の輸出を禁止してきた従来の政府方針を大転換した。
 この閣議決定によって、北朝鮮やイラン、イラクなど「国連禁輸国」以外の国々に、日本製の武器が輸出できるようになった。
 三菱重工を頂点にした2兆円産業といわれる日本の軍需産業にとって、防衛予算の枠を超えて、海外の武器市場に進出できるようになり、軍事ビジネスに拍車がかかった。これに先だって、中東やアフリカなどへの安倍首相の外遊に、軍需企業32社が同行し、「防衛交流」を深めていた。ラーメンからミサイルまでを扱う総合商社(三菱商事・住友商事など)も同行した。
 4月10日、霞ヶ関の経済産業省で、日本とフランスの軍需産業が一堂に会し、「日本のレーダーやセンサー素子技術はなかなかまねできない」、「次世代の対空ミサイルシステムに採用できないか」、といった会話が飛び交ったという(『日本経済新聞』2014年4月13日)。
 その2ヶ月後の6月16日、フランスのパリで開催された世界最大の国際武器展示会(「EUROSATORY2014(ユーロサトリ)」)には、58カ国の約1500社が参加し、90カ国約5万8千人の軍や業界関係者が来場したようであるが、戦車や装甲車からガスマスク、銃弾まで、陸上装備を中心に様々な軍用品が展示された。
 初めての参加となる日本ブースには、防衛省のスタッフと共に、三菱重工業や川崎重工業など大手から中小まで13社が、装甲車や地雷探知機のほか、顔面認証システムやサーチライトのような民間向け製品などを展示した。そこでは、「世界の国防関係者が日本の最新兵器に熱視線」(「特集 自衛隊と軍事ビジネスの秘密」『週刊ダイヤモンド』2014年6月21日号)を送っていたようである。
 武器の売上高(2012年)を比較すると、世界一の米ロッキード・マーチン社は、円換算で4兆5千億円ほどであるが、国内最大の三菱重工の売上高は、日本の防衛予算に依存し、その10分1に満たない3千億円ほどである。国内経済が不景気な上、武器輸出も足を縛られていた企業にしてみれば、安倍政権の「防衛装備移転3原則」の閣議決定は、外国の軍事予算もターゲットにした武器の販売など、新しい軍事ビジネスで巨額の売上げと利益が約束され、企業にとっては大歓迎である。
 だが、この道は、憲法違反の「戦争する国」への道であり、企業が「死の商人」になるこであり、戦後長きにわたって築き上げてきた「平和国家」日本の看板を捨て去り、最大の貿易相手国の中国や韓国などアジア諸国とのあつれきを増幅させる。結果的には、世界最大の経済圏であるアジア経済圏から孤立していき、日本経済が地盤沈下することになろう。

米艦艇は日本人を救出しない

 靖国神社への参拝などで、国際社会からも厳しい批判を浴びてきた安倍政権が、さらに暴走を加速した。7月1日の臨時閣議において、他国への攻撃に対して日本の自衛隊が反撃する集団的自衛権の行使を認めるために、憲法の解釈を変える決定を行った。
 戦後69年間に築き上げてきた「平和国家」日本の看板がこの政権の臨時閣議で塗り替えられ、憲法を時の政権の勝手な解釈によって空洞化する暴挙が行なわれた。
 歴代政権の憲法解釈を担当した内閣法制局の阪田雅裕・元長官は、この閣議決定に先立ち、「なぜ憲法だけを解釈〔変更〕でやってもいいということになるんだろうか。もしそんなことが許されるなら、立法府なんていらない。政府が勝手に時代に合うように法律を解釈する理由をつければいいということになるのだから」(『朝日新聞』2014年2月21日)と批判していた。
 集団的自衛権の行使に向けて、安倍首相が再三例示したのは、「日本の避難民を乗せた米艦を自衛隊が守る」ため、とのことであったが、肝心のアメリカは、過去の日米交渉おいて、米軍による「日本人の救出を断っていた」(『朝日新聞』2014年7月26日)。
 「反知性主義」と評価される安倍首相の立憲主義を否定する暴走によって、「戦争する国」への戦後史的な大転換が強行された。他方で、集団的自衛権の行使容認に反対する意見書が、短期間に190の地方議会(8月12日現在)で可決されている。

再稼働を差し止めた福井地裁

 安倍政権は、4月11日、原発を永久に使用しつづける「エネルギー基本計画」を閣議決定し、再稼働に前向きな委員のメンバーを原子力規制委員会に参加させることによって、原発を再稼働させようとしている。
 全国の原発が停止していても、日本経済はなんの支障もなく動きつづけ、企業も家庭も電力不足で経営や生活に支障を来すこともまったくなかった。どこをみても、原発再稼働の必要性はなく、むしろ脱原発こそが国民の願いである。
 5月21日、福井地方裁判所は、関西電力大飯原発3-4号機の運転差し止めを命じる判決を下した。その理由は、「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益」は憲法上の権利であり、これを奪ってはならない、原発は本質的な危険性を持ち被害が甚大である、人々の生存に関わる権利と電気料金の高低の問題を同列に扱うことは、法的には許されない、などであった。
 復興庁の最近の発表によれば、7月10日現在で、東日本大震災・原発事故によって、全国47都道府県に避難している人の人数は、約24万7千人である。避難された方は、平穏な生活を奪われ、大変なご苦労をつづけ、3年以上たってもまだ政府から有効な対策が打たれないでいる。脱原発を決議した議会数も455議会(1月19日現在)に達している。
 このような国民の願いと世論、地裁の判決に逆らって、原発関連企業の利益を優先する安倍政権は、危険きわまりない亡国の政権といえるであろう。

『税経新報』No.625, 2014年9月

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