59. 日銀総裁57年ぶりの再任 〜家計を犠牲に「異次元バブル」膨張〜
安倍政権の支持率は20%台に下落しましたが、ロイター社の大企業調査(4月実施)では、安倍首相続投が「望ましい」との回答が73%に達しています。これは、どれほどアベノミクスが大企業の利益拡大に貢献してきたかを示しています。
アベノミクスの「第1の矢」を担う黒田東彦(はるひこ)日銀総裁も4月9日、再任されました。日銀総裁の再任は、1961年に再任された山際正道氏以来、57年ぶりです。当時の山際総裁は、インフレ物価高を押さえ込む「物価の番人」として「通貨価値の安定ということは、経済の成長とか、発展とかの概念よりはさらに次元の高い概念」と主張していました(「日本銀行百年史」)。だが黒田総裁は、中央銀行の独立性を放棄し、アベノミクスの先兵役となり、物価を上げようとしています。現在の日銀を見ると、その変質の大きさに驚かされます。
周知のように、黒田日銀は利子率を極端に低くする異次元の金融緩和政策を断行し、マイナス金利政策にも踏み込みました。超低金利政策は、貯蓄主体の家計部門から預貯金の利子所得を奪いますが、借入金の利払い費を軽減できる企業にとっては大歓迎です。
80~90年代のバブル崩壊後、長期におよぶ低金利政策により家計部門が失った利子所得は435兆円に達します。他方で、企業部門は762兆円も利払いを軽減できました。低金利政策とは、家計から企業へ所得を移転する政策です。
原理的には(『資本論』3巻5篇)、総資本にとっての総利潤は、利子と企業者利得の2つに分割されます。ですから銀行などの貨幣資本家に支払う利子が低ければ低いほど、企業などの機能資本家の手元に残る企業者利得(=産業利潤・商業利潤)は大きくなります。
アベノミクスがどれほど企業者利得に貢献してきたかは、大企業が内部留保を新たに70兆円も増やしたことで証明されています。正社員の非正規雇用への置き換えや法人減税と相まって、異次元緩和は企業者利得増大の強力な屋台骨になってきました。
2期目の黒田日銀は相変わらず「2%の物価上昇」を掲げています。すでに実現不可能と実証され、破綻した「2%の物価上昇」のスローガンこそ、日銀という「馬」を、正常化への出口戦略でなく、引き続き異常な金融緩和政策に突進させるための「ニンジン」といってよいでしょう。
今後5年間、日銀は従来通り大量の国債を購入し、ジャブジャブの緩和マネーを銀行に供給し続けることになります。それが内外の株式などの金融資産や不動産市場に投資され、いっそうバブルを膨らませて、大企業・富裕層・内外投資家の資産と利益を拡大します。
その結果、貧困と格差はさらに拡大するでしょう。政府は国債を増発して、財界が求める大型公共事業を追加し、米トランプ大統領の要求に従って高額兵器の購入を増やそうとするでしょう。
その先に見えてくるのは「異次元バブル」の崩壊です。かつて大銀行支援などで46兆円を超える公的資金が投入されたように、大きすぎてつぶせない企業や金融機関は税金で救済されるのでしょう。しかし、財政赤字を補てんするために消費税が増税され、社会保障予算などは削減されます。暮らしと経済を守るためにも安倍政権の早期退陣が求められます。