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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

35. 「異次元の金融緩和」政策とはなにか〜「アベノミクス」の特徴と問題点を探る〜

 第二次安倍政権の放った三本の矢(金融緩和・財政出動・成長戦略)のうちの鏑矢ともいうべき矢は、日本銀行を巻きこんだ「異次元の金融緩和」政策である。非伝統的と評価される超金融緩和政策の特徴は、以下の通りである。
 第一に、メディアを利用して強いメッセージを発信し、世の中の雰囲気を変え、期待感を高揚させようとす る一種の「口先介入」を先行させていることである。「異次元の金融緩和」、「2年で2倍の資金供給」、「国債購入月7兆円」といった強いメッセージは、情 勢を先読みして動く内外の浮気な投資家の関心を目覚めさせ、すぐに国債価格の上昇、株高、円安となって表面化し、「安倍バブル」[i]が発生した。その結果、国債・株式などを保有する内外の投資家の金融資産は上昇し、利益に浴したが、国民の生活は、円安による輸入物価の上昇で悪化した。
 第二は、金融政策の操作対象を金利から、資金供給量(マネタリーベース=社会で流通している現金と金融 機関の日銀当座預金残高の合計)に変更し、この資金供給量を2年間で2倍にし、日本の経済社会に溢れかえるマネーを注ぎ込もうとしていることである。すで に金利はゼロ近傍に張り付いているので、これ以下に下げようがないので、「次元の異なる金融緩和」を実施するには資金供給の量そのものを増大させることに なったわけである。実体経済の成長をともなわない過剰なマネーの供給は、金融資産や不動産関連のバブルを膨張させることになる。
 第三に、資金供給を倍増させるやり方は、日銀が毎月7兆円ほどの国債を金融機関(銀行)から大量に購入し、その購入代金を提供するやり方(日銀当座預金残高の積み増し)である。日銀が毎月7兆円もの国債を購入するようになると、それは新規に発行される国債の7割[ii]ほどが日銀によって引き受けられることになり、国債発行の歯止めを失う。
 第四に、日銀が、株価や不動産価格の動向に直結するリスクの高い金融資産(ETF、J-REIT)も購 入対象にしたことである。「異次元の金融緩和」は、資金供給量だけでなく、リスクの高い金融資産にも手をだす「質」にも配慮した「量的・質的金融緩和政 策」の特徴をもつ。これは、「アベノミクス」の金融政策のねらいが、株価や不動産価格も上げようとしていることを示唆している。
 そもそも、2年間で物価を2%上昇させるために、「あらゆることを実施する」(黒田東彦日銀新総裁)、 といった金融政策は尋常ではない。常識的には、中央銀行は「物価の番人」として、国民生活を破壊し、社会を混乱させるインフレ・物価高を抑制するインフ レ・ファイターの役割を演じるはずであるが、それとは逆に、インフレ・物価高を促進する役割を引き受けているところに、今回の金融政策の異常性が表れてい る。
 国民生活を直撃、実体経済には及ばず
 このような特徴をもつ「アベノミクス」の金融政策がフル回転をはじめているが、問題は、国民生活と経済社会の安定に直結する実体経済の成長をともなっているのか、どうかである。
 その答えは、NO!である。
 まず、賃金は連続して削減され、国民の可処分所得が減退している近年、さらに物価が上がれば、それだけ 国民生活は困窮化する。そのうえ、ここに2%の物価上昇と10%の消費増税がのしかかることになるので、「アベノミクス」は、国民生活を今まで以上に困難 にするであろう。これでは、国内需要の大黒柱である個人消費は増えるどころか冷え込んでしまい、実需をともなった景気回復は期待できず、実体経済は活性化 しない。
 つぎに、企業の設備投資に対する姿勢はどうかといえば、慎重なままである。日銀短観(2013年3月)によれば、大企業製造業の設備投資計画は、前回(2012年12月)と比較して、下方修正され、円安で業績は好転しているが、設備投資は削減する[iii]、といった後ろ向きの企業姿勢が顕著に表れている。270兆円に達する内部留保金はそのまま「埋蔵金」として確保し、設備投資に回すでもなく、賃上げにも回さないので、実体経済は、いままでのような低迷が続くことになる。
 さらに、過去の景気回復のエンジンであった輸出ドライブも、作動していない。欧州の政府債務危機で欧州向けの輸出は落ち込み、またアジア向けも弱含みで推移しているためである。とくにアメリカに代わって戦後最大の貿易相手国になった中国[iv]と の貿易は停滞している。日本の貿易総額に占める割合(2011年)は、中国が20・9%と最大であり、2位のアメリカはその半分の11・9%、そして3位 は韓国の6・3%である。昨今、安倍内閣の閣僚を含む国会議員が靖国神社に参詣し、中国や韓国の反発を招いているが、中国や韓国などアジア諸国との貿易な くして日本経済は成り立たない時代が訪れている。閣僚や総理がA級戦犯を奉る靖国神社に参拝することは、ドイツに例えていえば、メルケル首相とその閣僚が ヒットラーのお墓参りをすることと同じである、と警告するのは、イギリスの代表的な新聞「フィナンシアル・タイムズ」紙の特集[v]である。安倍政権は国際社会の常識から逸脱している、といってよい。
 国民生活はますます困難を増している。というのも、円安による輸入物価の上昇は、食料品やガソリンなど の生活関連物資の価格を上昇させているからである。賃金が横ばいか、削減傾向にあるなかで、物価が上昇すると生活苦は倍増する。他方で、輸出で稼ぐ日本の 大企業は円安のメリットを享受し、経営を好転させている。 
 このような状況下にあるにもかかわらず、「アベノミクス」は鏑矢の「異次元の金融緩和」政策をフル稼働 させ、国債の大量購入に邁進している。その本来の目的と意味はどこにあるのか、「アベノミクス」の狙いとリスクを読み解いていこう。ーーーーこの点につい て、詳しくは、前掲の拙著『国債がわかる本』(大月書店、2013年5月刊)をご参照くだされば幸いです。
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[i] 「安倍バブル」に注目する経済誌も、「噴き上がる日銀バブルー溢れ出る大量マネーの行き先とパワーー」との特集を組んでいる。『エコノミスト』2013年4月9日
[ii] 『日本経済新聞』、2013年4月5日
[iii] 三井住友信託銀行「経済の動き〜「量的・質的金融緩和」の効果とリスク」『調査月報』2013年5月号、3㌻。
[iv] 米中のGDPが逆転する日は近く、「つぎの10年で中国はアメリカを追い抜くにちがいない」、「2020年には、中国経済はアメリカ経済よりも大きくなる だろう」と指摘するのは、〝A game of catch-up〟-Special Reportー The World Economy , The Economist ,Sep.24 2011,p.5、である。
[v] Financial Times(2004)〝Two giants of Asia must find a new way of co-existing〟Japan and China –Prospect for commerce, collaboration and conflict between Asia’s two giantー,A special series of exclusive intervies and reports,p.14

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