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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

経済社会評論集

11.  持続可能な経済と拡大生産者責任

はじめに

 戦後の日本経済は、ともかくどんどん作り(大量生産)、それをどんどん買ってもらい(大量消費)、古いものはどんどん捨てる(大量廃棄)と いうやり方で、高度経済成長を実現してきた。その結果、1960年代末には、ドイツを追い越してアメリカに次ぐ「経済大国」となり、こんにちに至ってい る。
 このような大量生産ー大量消費ー大量廃棄型の経済社会は、すでに、過去において、深刻な公害問題を発生させ、生活からゆとりと豊かさを奪い、「くたばれGNP!」といった標語を生み出した。あれからほぼ30年間の月日が流れた。
 だが、いまなお日本経済は、年間、ほぼ5億トンの廃棄物を排出し、天然資源の枯渇化、地球の温暖化やオゾン層の破壊、ダイオキシンなどの有害物の排出、不法投棄、自然や環境破壊など、将来への人類の生存に脅威を与えつづけている。
 21世紀の初頭に、こうした社会経済システムから脱却し、日本の経済社会と人類が、今後とも持続可能な新しい循環型の経済社会システムを構想することは、火急の課題になっているといってよい。
もとより、この課題は、大きなテーマであり、さまざまなアプローチが可能である。そこで、ここでは経済学的な視点から、廃棄物を減らそうとする試みについて検討する。

家庭ごみの有料化と行政サービス

 年間5億トンの廃棄物を前にして、どうやって発生抑制するか(リデュース)、どう再使用するか(リユース)、再生利用はできないか(リサイクル)など、 各種の対策が実施されてきた。また有害物資を無害化する各種の技術革新も格段の進歩を見せている。ただ生活者の立場からすると、昨今、全国の市町村で広が りつつある家庭ごみの有料化問題は、再考の余地を残しているといえる。
 「循環型社会元年」と宣言された2000年12月に閣議決定された「環境基本計画ム環境の世紀への道しるべ」(環境省編)は、「廃棄物の発生抑制及びリ サイクル推進のための経済手法に関しては、家庭系の廃棄物についても従量制による処理手数料の徴収の推進など適切な負担を求める」(30ページ)と提言す る。家庭ごみの収集袋を有料化するなどの手法が採用されはじめた。
 だが、こうした経済手法には問題があるといえる。「公共財の理論は、ごみ処理サービスを公共財の一種とみなし、ごみをなぜ無料で集め、公共サービスとし て処理しなければならないかを説明している。一般に、ごみ処理、保健衛生、あるいは教育などのサービスは、そのサービスによって得られる私的利益よりも社 会的利益の方が大きい。したがって、市場メカニズムによる供給では過小供給になってしまう。
 さらに、仮に、市場メカニズムによる供給を考えるにしても、市場メカニズムによるごみ処理サービスが成立するためには、金を払うことなしには、ごみ処理 サービスは受けられないという制度ム具体的には不法投棄の監視などをして、無料でごみを捨てることはできない状態ムが作られなければならない。
 ところが、ごみは排水や排ガスと比べて、不法投棄のようにその排出源を移動させることが容易なので、逆にそうしたことをさせないための費用ム排出費用と呼ぶことができるーは高額にならざるをえず、市民が支払うごみ収集料をおそらく上回るであろう。
 したがって、経済的に考えた場合、ごみ処理サービスは公共財の一つとして無料で収集、処理された方が望ましいことになるのである。」(植田・岡・新澤編『環境政策の経済学ム理論と実際ム』日本評論社、1997年、217ページ)。
 理論的には、家庭ごみの有料化は、望ましいことではない、といえる。実際的にも、すでに、実施している自治体の経験では、有料化に踏み切った時点で一時 的に回収量が減退するが、その後徐々に増加し、やがて有料化以前と比較し、一割ほど回収量が減った状態で一段落する、との報告がある(『朝日新聞』 2001年10月17日)。
 ただ、この場合でも、有料化にともなう不法投棄の増大ーこれは発見できていない部分が多いわけだが、この不法投棄されたごみの回収料金が、有料化したこ とで新たに徴収した金額を上回る場合もありうる、との指摘もあり、ごみ処理のコスト面で、1割のごみの減量が、そのまま1割のコスト減には直結しない、点 を十分考慮すべきである。

廃棄物の区分の見直し

 生命の再生産と暮らしに関わる家庭生活から出る家庭ゴミという廃棄物と、私的な利益追求の経済活動であるビジネスの結果から出る産業廃棄物とは、本来次元を異にする廃棄物のはずである。
 だが、現行の廃棄物処理法での定義及び区分では、これらの違いを無視し、使用済み自動車も、なんと家庭ゴミといっしょに一般廃棄物と定義している。一般 廃棄物と定義されれば、その処理(収集・運搬・処分)は市町村が行政サービスの一環として住民の税金で実施されることになる。東京都区部の調査では、産業 廃棄物に属する事業系のごみが、一般廃棄物のほぼ六割を占めている。家庭ゴミは、一般廃棄物の半分以下しか占めていない(『月刊廃棄物』2002年6月 号、58ページ)。
 一般廃棄物と定義される年間500万台にも達する廃車となった自動車は、個人などの使用者が個人の負担で販売店や整備業者に廃車処理を依頼している。 メーカーは、自動車を製造し、販売してしまえば、あとの面倒は見ないで良いことになっているので、山中や海中で、廃棄された自社製のクルマの無惨な姿を見 ても「生産者責任」は問われない。世界第3位のトヨタ自動車は、内外の自動車工場でほぼ650万台の新車を作り、海外で安価に生産した自動車も国内に持ち 込んで販売している。
 このような現状では、一般廃棄物を減らそうにも限界がある。家庭ゴミを有料化し、かりにその排出がゼロとなっても、一般廃棄物の六割はそのまま存在す る。したがって、廃棄物の減量を達成するには、まず現行の廃棄物処理法の定義と区分を見直し、家庭ゴミとそれ以外の事業系の産業廃棄物とに二分することが 肝要であろう。

拡大生産者責任の導入

 全体の廃棄物を減量するには、家庭ごみ処理の有料化を実施する前に、まず事業系の産業廃棄物の減量やリサイクル問題にメスを入れるべきであろう。
 そもそも、有害なフロンガスを内蔵し、現代の先端技術を駆使した複雑で化学処理された数万点の部品からなる500万台の自動車の廃棄処理など、一般の市 町村の責任でできるはずもなかろう。その処理が十全に実施できるのは、それを製造したメーカーしかない。ドイツの自動車メーカーは、自社製の使用済み自動 車を引き取って、処理する拡大生産者責任を全うしている。生産ム販売ム廃棄のすべての局面で、メーカーが  責任を持って対応している。
 なのに、ドイツをはるかに上回る経済大国日本の自動車メーカーには、それができないのか、説得的な説明がない。単に利益追求を目的して自動車を作って、 売っているという理由は、現代では通用しないはずである。もし仮に、家庭ゴミの有料化で徴収した資金が、自動車やその他の産業廃棄物の処理資金に充用され るようなことがあったら、それは、むしろ廃棄物の減量化に対してはマイナスの効果となる危険性もある。財界総理ともいわれる日本経団連会長でもあり、日本 の自動車業界のトップでもあるトヨタ自動車の現経営責任者の循環型社会への決断が待たれる。
 ドイツで、拡大生産者責任が適用されるのは、自動車だけではない。ドイツでは、容器包装の製造業者と流通業者にも、各家庭からの自社製品の回収とリサイ クルを義務づけている(詳しくは表1及び表2を参照されたい)。業者にとっては、リサイクルコストが高くつきすぎ、採算のとれないプラスチックなどのごみ は、市場メカニズムを通じて大幅に減少させざるを得ない。(川名英之『どう創る循環型社会ードイツの経験に学ぶー』緑風種出版、1999年)。
 というのも、「1リットルサイズのペット容器の収集・処理には、1個あたり55円かかると見積もられている。」(寄本勝美『ごみとリサイクル』岩波新 書、233ページ)。これに対して、かつての1升ビンなどのように何度も使用できるリターナブルビンのリユース(再利用)は、新しくビンを作るよりも13 分の1も、資源を節約できる。その結果、ペットボトルなどの有害・高コストごみは、生産者責任を導入することで、大幅に減らすことができる、ということを ドイツの経験は教えている。
 年間5億トンの廃棄物といっても、家庭ゴミの割合はわずかに5%ほどに過ぎず、大半は事業系の産業廃棄物である。したがって、仮に家庭ゴミの排出がゼロ となっても、廃棄物の全体量は減少しない。本命は、産業廃棄物をどう減らし、再使用し、再生利用するかにある。そのためには、ドイツなどの先進事例に倣っ た拡大生産者責任の制度と規制執行システム(規制順守のためのモニタリングとペナルティのシステム)を早急に確立することであろう。
【やまだ ひろふみ・群馬大学教育学部教授】
    (e-mail : yamachan@edu.gunma-u.ac.jp)



表1 容器リサイクルにみる循環型社会の国際比較
ー廃棄物の原料とリサイクルに成功したドイツー

ドイツ
*関連業界への規制 包装・容器ゴミを減らすために、製造業者と流通業者に対して、各家庭からの回収・リサイクルを義務づけた。その結果、コストが高くつくプラスチックなどのゴミが、市場原理に基づいて大幅に減少した。
*規制・監督機構 環境省(正式名称=「環境・自然保護・原子力安全委員会」)が、廃棄物処理とリサイクルのすべてにつき一手に掌握し、一元的に管理している。その結果、内部対立もなく実効をあげている。
*環境教育 早くから消費者に対して環境教育を実施してきたので、環境・リサイクルに対する国民の意識も高く、環境関連法案の作成にあたり、行政・関連業界への働きかけも強力である。
*製造業者責任 廃棄物の処理について、設計段階から廃棄に至るまで、製造業者が責任を持つ考え方を採用し、施策を実施してる。

日 本

*「容器包装リサイクル法」には、ドイツの考え方を取り入れたが、実際の運用に当たっては、関連業界に対する規制は弱い。その結果、ゴミの減量化に成功していない。
*「容器包装リサイクル法」では、通産・農林・厚生・大蔵の4省の共管、「家電リサイクル法」は、通産と厚生の共管、「リサイクル法」は、通産を中心に、6省が共管。責任の不明確化。
*消費者に対する環境教育は十分とはいえない。環境・リサイクル関連法案の作成にも、関連業界の意向、省庁では業界の意向を反映しやすい通産省の影響力が強い。
* 製造業者が、設計段階から廃棄物のリサイクルに責任を持つような考え方や施策については弱い。
(出典)川名英之『どう創る循環型社会ムドイツの経験に学ぶ』緑風出版、       1999年9月、より作成。



表2 家電リサイクルの国際比較

リサイクル対象家電と負担関係 回収・再資源化
日 本
4品目の家電に限定。消費者が最終的にメーカーに支払うリサイクル料金は、全機種・全国同一で、冷蔵庫(4600円)、エアコン(3500円)、テレビ (2700円)、洗濯機(2400円)である。他に、消費者が回収の窓口になる小売店か自治体などの引き取り者に支払う収集・運搬料金は、それぞれ 1000円~3000円ほどである。 再利用可能なリサイクル率は、冷蔵庫(50%)、エアコン(60%)、テレビ(55%)、洗濯機(50%)である。

ヨーロッパ諸国 先進国のベルギーでは、
 パソコンなどの情報通信機器、冷蔵庫などの大型家電、テレビなどのAV機器など、ほとんどすべての家電がリサイクルの対象になり、130品目以上の詳細 なリサイクル料金が設定されている。消費者が新品購入の際に、小売店に支払うリサイクル料金は、パソコン(ノート型で3ユーロ=約300円)、冷蔵庫 (20ユーロ=約2100円)、テレビ(11.2ユーロ=約1200円)などである。こうした制度は、EU全域に適用されつつある。 ベルギーでは、回収された廃棄物から鉛や水銀が除去され、大型家電は90%、小型でも70%の材料を再資源化することが義務づけられている。オランダで は、メーカーに全商品の回収責任を負わせる法律を制定し、EUのモデルとなっている。欧州委員会が提案したEU廃家電指令案では、すべての電気・電子機器 を対象に、2006年までに住民1人あたり年4キロの分別回収を目指し、大型家電ならリサイクル率75%を目指す。

台湾
家電・タイヤ・鉛電池など21品目の回収と処理は、メーカーや輸入・販売業者が責任を持つ。消費者は新品を購入するとき、小売店に支払うリサイクル料金 は、大型冷蔵庫(680台湾ドル=約2400円)、エアコン(290台湾ドル=約1000円)、などである。 家電4品目については、メーカーが中心にリサイクル会社を設立し、リサイクル率は、冷蔵庫(58%)、エアコン(7%)、テレビ(52%)、洗濯機 (56%)である。
(出所)『日本経済新聞』2001年2月26日、『朝日新聞』2001年2月24日、より作成。

『群馬評論』第94号、群馬評論社、2003年4月、掲載。

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