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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

経済社会評論集

9. はじまったアメリカ経済のバブル崩壊

 はじめに

 20世紀末以来、過去10年間ほど、日米経済は、暗と明といった対照的な姿をとってきました。
日本はバブル崩壊後の長期経済不況に沈み、繰り返し巻き返し「景気対策」を行っても、深刻な不況のまま今日に至っているのに、海の向こうのアメリカは、国 内経済が大活況をつづけただけでなく、IT(情報通信技術)などの先進技術やグローバル化した経済でも、圧倒的な強さを見せつけ、まさに世界のなかで「独 り勝ち」といった「わが世の春」を謳歌してきました。
 だが、膨らみきった泡(バブル)は一定の限度を超えると必ず破裂するように、とうとうアメリカ経済のバブルも、破裂しはじめたようです。
はたしてアメリカ経済におけるバブル崩壊は、どのような意味を持つのでしょうか、日本や世界に与える影響はどうなるのでしょうか。

ウォール街の株式バブルの崩壊

 アメリカのニューヨークのウォール街は、戦後、とくに1990年代以降、特別な意味を持たされた国際的な金融街です。それは、アメリカ経済圏だけでなく、 ヨーロッパやアジア経済圏など、世界中からマネーを集め、そして世界中にマネーを再配分・投資する役割を担っています。経済やマネーに関するあらゆる情報 とネットワークは、ウォール街を中心に動いているからです。世界の金融機関や企業が軒を並べるNY・ウォール街の動向は、いうまでもなく世界経済に直結し ます。
 すでに2000年頃からバブル崩壊の兆しを見せていたアメリカの株価(ダウ平均株価)は、ピーク時に1万3000ドル台を記録しましたが、とうとう今年に 入って、7000ドル台まで暴落してきました。ダウ平均株価は、九〇年代のバブル以前で、5000~6000ドルと評価されてきましたから、まだ暴落する 余地があるといえます。
 ちょうどわが国で10年ほど前に経験したバブル崩壊が、いま、アメリカを襲っていることになります。わが国と同じように、アメリカでは、各種の金融・経済犯罪がつぎつぎに表面化し、また企業倒産や大規模人員削減、個人破産などが起きています。

市民生活直撃する株価暴落

 アメリカの株式バブルの崩壊は、市民生活を直撃することになります。というのも、日本とアメリカでは、市民生活に占める株式の比重が、根本的に異なってい るからです。日本人は、個人資産をほとんど銀行預金や郵便貯金というかたちで保有し、株式を保有する割合はきわめて少なく一割ほどですが、アメリカ人は まったく逆で、株式が、個人金融資産で最大のウエイトを占めているからです(図表1参照)。
 「米国では、一般的に株式投資は、市民にとって、銀行預金以上に確実な魅力ある貯蓄手段として考えられており、老後の生活資金確保等、人生に不可欠な部分 のお金の確保に使われてきた部分が大きい。破綻したエンロンの大多数の従業員は、自社株を確定拠出年金(「401K」)口座に組み込み老後に備えてい た。・・・一般市民にとっての株式投資は、米国経済の成長を支える愛国的な行為であるとさえ思われていた。」(木暮淳「ニューヨーク報告 グローバルスタ ンダードの崩壊」『調査月報』、No.230、2002年8月、19ページ)。
 そのため、アメリカでは、退職後の生活資金の予定であった個人の年金積立金も、株式バブルの崩壊によって壊滅的な打撃を受け、老後の生活保障が危機を迎え ます。先のエンロンの従業員の例では、積み立てていた年金の95%がなくなってしまいました。個人破産も急増し、150万人を超えています。

信頼揺らぐアメリカ型資本主義

 「9・11(同時多発テロ)よりエンロン事件のほうが、米国の社会にとって大きな転換点になるだろう」、とポール・クルーグマンは、米紙のコラムに書いた が、それはエンロン事件が、グローバル経済のスタンダードとされたアメリカ型資本主義の根幹を揺るがす事件だったからです。
 多国籍エネルギー・コングロマリットのエンロンは、IBM、GE、インテルなどとともに、ウォール街の花形企業、世紀末株式ブームの象徴でしたが、株式バ ブルの崩壊のなかで、大手銀行、会計事務所や法律事務所、証券アナリストなどとも関係した各種の粉飾決算や不正な会計操作を表面化させつつ、史上最大の倒 産(その後、通信大手のワールドコムの倒産が最大となる)にいたりました。
 グローバルスタンダードの手本とされたアメリカ型資本主義における情報の公開、公正な取引、それを担保する幾重ものチェック機構が、買収・談合などによっていずれも機能していなかったことが、グローバルに公になりました。
 イギリス紙『フィナンシャル・タイムズ』(2002年7月31日)によれば、破産したアメリカの大企業25社の経営者・役員は、2001年1月以来、ほぼ10万人の従業員の職を奪う一方で、自らは33億ドル(ほぼ4000億円)の利益を得ています。
 アメリカ社会の成功者である最高経営者達は、大型倒産により、従業員や一般株主・投資家に巨額の損失を押しつける一方で、内部にいるものだけにわかる情報 を利用したインサイダー取引などによって、倒産前に、高値で大量の自社株を売り抜けたりして、莫大な利益を手中にしていたわけです。
 利潤の極大化と株価至上主義とが最優先されるアメリカ型資本主義は、結局、「もたれあい資本主義」「クローニーキャピタリズム」と批判されてきたアジアや日本型資本主義とまったく変わることのない深刻な「腐朽化」とモラルハザードに陥っていたことになります。
 これは、資本主義的な経済社会のあり方に根本的な疑念を発生させ、国内では、個人投資家の株式市場離れを促進することでさらなる株価暴落をもたらし、対外 的には、グローバル経済の手本として各国に強要してきたアメリカン・スタンダードへの不信が広がり、むしろ反グローバリズムの運動を高揚させていきます。
 だからこそ、ブッシュ政権は、即座に、「ルーズベルト以来の企業改革」と自賛する企業への厳しい罰則と監視強化法案(「サーベンス・オクスリー法」、図表 2参照)を議会で成立させました。証券詐欺、粉飾決算、書類の破棄を行った経営者は、最長で20~25年の禁固刑に処せられます。この点、経営者の責任を 曖昧にし、改革を先延ばしする日本政府や行政と違い、おおいに見習うべき所といえます。

世界経済のゆくえと日本

 いずれにせよ、アメリカ経済のバブル崩壊、それにつづく不況は避けられないことですから、今後の世界経済、まして対米輸出に依存する日本経済は、大口のマーケットを失うことを意味するので、景気の後退や不況の深化は避けられない、といえるでしょう。
 高名な経済学者のチャールズ・キンドルバーガーは、『日本経済新聞』(2001年3月17日)のインタビューに答えて、「1930年代にも米国の不況が世 界に連鎖し世界恐慌に発展した。」、と指摘し、今回のアメリカの事態を1930年代世界大不況期に匹敵するほどの出来事と受け止めています。
 日本は、こうした深刻な事態を軽微に乗り切るためにも、過度な対米依存や対米従属的な対外経済政策を卒業し、ヨーロッパ経済圏やアジア経済圏との良好な経済関係を広範囲に確立していくことが緊急の課題となってきているといえます。

(注:図表は省略していますので、『群馬評論』を参照して下さい。)
(e-mail : yamachan@edu.gunma-u.ac.jp)
( http://www.edu.gunma-u.ac.jp/~yamachan/Welcome.html) 
『季刊 群馬評論』第92号、群馬評論社、2002年9月、掲載。
【やまだ ひろふみ・群馬大学教育学部教授】


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