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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

27. 21世紀型世界金融・経済危機を考える



現代世界は、「100年に1度」といわれる大不況に直面している。本稿の目的は、このような世界金融・経済危機の特徴を取りあげ、その経済的な 背景と問題点を検討する。そして、激変する21世紀の世界経済を展望し、安定した経済社会を実現するための中長期的な選択肢を提起する。

1 アメリカ発の金融危機と世界同時大不況

 1-1 国際金融センターと消費大国の機能麻痺—戦後の従来の危機との相違—
今回の金融・経済危機が戦後各国において繰り返されてきたさまざまな危機と根本的に異なるのは、戦後の経済体制において、国際金融センターと消費大国の役割を担ってきたアメリカがその機能を発揮できなくなっていることである。
 世界の取引の最終決済の場であるドル預金口座の機能麻痺、多様な金融商品と取引手法を駆使し、世界のマネーの回り舞台となっていたウォール街の機能麻痺、そして世界で最も巨大な消費市場の機能麻痺、これが今回の世界金融・経済危機の特徴である。
 1-2 証券化・デリバティブ・規制緩和—リスク転嫁のビジネス、金融バブルの膨張と破裂ー
商業銀行資産額、株式、債券、デリバティブの時価総額の合計額は、2006年現在で、約190 兆ドル(2.2 京円)になり、これは、世界のGDP合計48兆ドルの4 倍に相当する。
 今回は、アメリカの住宅ローンなどを担保して、大量の証券化金融商品がつぎつぎに組成され、それが世界中に販売されていたことである。
 店頭デリバティブの取引残高は、370 兆ドル(4.3 京円)に達しているが、時価評価額が10兆ドルなので、その37倍もレバレッジをかけた取引が行われていることになる。しかも、デリバティブ取引は当局へ の報告義務を免除された相対型の取引のため、その取引実態は不明であり、損失が表面化してはじめて、事態の深刻さがわかる。
 1−3 金融危機から世界同時大不況へー信用收縮、買手不在、企業倒産、大失業—
 アメリカの住宅バブルの崩壊を契機にして、世界の金融証券市場は暴落し、金融業や投資家の損失が表面化した。この1年間の株価の暴落で、世界の 株式時価総額は半減し、3000兆円が消滅した。国際金融センターアメリカ発の金融危機が、グローバル化した経済の下、世界の同時的連鎖的な金融・経済危 機を誘発したのである。
 深刻な失業、企業倒産が発生するなかで、破綻するアメリカの金融機関の経営者は、数千万ドル(数十億円)の報酬を受け取っていた。他方、1日2ドル以下で生活する人々は人類の40%の25億人に達している。

2 アメリカモデルの輸出と日本の金融ビッグバン

 2−1 金融ビッグバンとアメリカ型金融モデルー銀行よさようなら、証券よこんにちは—
金融ビッグバンは、アメリカ型金融モデルへの転換を意味する。すなわち、預金の受入と貸付といった伝統的な商業銀行業務とそこから発生する金利 収入でなく、もっと攻撃的に、金融商品の売買による売買差益、M&Aの仲介、資産管理、証券化商品の組成・販売、各種の手数料を追求する業務、そこから発 生する非金利収入型の証券ビジネスである。
 アメリカ型金融モデルは、ハイリスク・ハイリターン型の金融ビジネスにほかならない。
 2−2 少数の金融ガリバーによるグローバル市場の独占とウィンブルドン化
 世界の証券業収入は、2006年現在、7000億ドル(80兆円)を上回るが、アメリカの金融業がほぼ6 割を独占している。その内実は、今回の金融危機により消滅してしまったアメリカ・ウォール街の5大投資銀行(証券会社)である。
 ロンドンのビッグバンは、日本よりも10年ほど先に行われたが、これによって、ロンドン市場の主役は、アメリカ勢に占められた。日本の場合も、ビッグバン後、株式市場の売買シェアの7割は、外国人投資家で占められる。
 2−3 円ドル相場に振り回される経済—ドル依存の脆弱性—
 従来、アメリカ中心の外需に依存してきたわが国の対外経済活動は、そのほとんどがドル建てで取引されるために、円ドル相場の変動に極端に振り回される脆弱性を有している。
「対外資産大国」日本のほとんどはドル建て資産のために、わが国の対外資産価値を維持するためにはアメリカのドルを擁護しなければならない、と いうねじれた関係にある。貿易もドル建て比率が高いため、円高になると巨額の為替差損(トヨタの場合では、1円の円高は200億円を越える為替差損)が発 生し、企業の赤字と円高不況に襲われる。

3 経済のグローバル化と21世紀型危機の時代

 3−1 ビジネス展開は地球的な規模へー生産・販売・雇用・利益の海外依存—
 対外進出する日本企業は、平均して営業利益の3割(トヨタ4割、日産6割、ホンダ7割)は、海外部門に依存している。日本経済が破綻しても、多国籍化した巨大企業は海外で生き残れる。
 日本国内で失業者が350万人も発生しているのに、対外進出した日本企業は、海外で従業員を372万人も雇用している。これらの指標は、国内産業と雇用の空洞化を示している。
 3−2 24時間眠らないマーケットー経済の金融化・情報化—
 地球の自転にあわせて、昼の時間帯にある国のマーケットは常に稼働中のため、コンピュータのグローバルなネットワークの中で行われる金融ビジネスは24時間眠らないで行われる。しかも、ネットを利用すれば、海外との100億円規模の取引も、30秒ほどで完了する。
 現代の金融ビジネスは、時間と空間の制限を超越したビジネスとして展開される時代になった。
 3−3 巨大マネーの激流と「21世紀型危機」—地球的規模の連鎖的な通貨危機・経済危機—
 生産と消費といった経済活動にともなう景気循環ではなく、巨額のマネーが国境を越えて瞬時に移動し、各種相場の乱高下を誘発することによって、 世界の金融・経済が連鎖的に危機に陥る時代—これを仮に「21世紀型危機」と呼ぶーが到来している。これは、はたして資本主義的な市場経済はこのままでい いのか、といった根本的な疑問を提起した。
 3−4 ゼロ金利・量的金融緩和政策と各種公的支援の功罪
 各国が一斉に採用した金融支援や景気対策により、戦前のような世界大不況の大波は、一定程度緩和できているといえよう。
 だが、こうした対策は、金利機能の消滅、流動性の供給か金融機関の救済か、公的支援にともなう中央銀行と通貨への不信、当局による株価操作、財政赤字の累積と長期金利の上昇、債務返済と重税、インフレによる生活破壊、などのリスクを抱えこむことになった。

4 激変する21世紀の世界経済地図と今後の選択肢

 4-1 BRICsの成長と米中逆転の世界へー21世紀前半で中国GDPはアメリカを超越—
BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、とくに中国のGDPはドイツを抜き日本に次ぎ世界第3位になった。21世紀の前半で、世界経済地図(図表1-2を参照)は激変し、中国が世界最大の経済大国となり、アメリカ、インドの順となる。
 21世紀の世界経済は、中国を初めとしたアジア経済圏によって主導される時代が訪れる。
 4-2 「世界の工場」中国の台頭と日中経済関係—逆転した日中貿易額と日米貿易額—
すでに日中貿易額(27兆8743億円—2007年)が、日米貿易額(25兆2448億円—同年)を上回る時代が到来した。今後、日中貿易額はさらに増大し、日本の最大の貿易相手国は、アメリカではなく、中国である。
 こうした大きな変化が発生しているのに、日中間の関係は、いまだ「政冷経熱」の関係に止まっている。アメリカという巨大消費市場が縮小してし まったが、トヨタなど対外輸出企業にとっては、隣国に人口比でアメリカ4個分に匹敵する中国という巨大市場が存在するはずである。他方、中国にとっても、 同じ隣国に、環境保全や省エネルギーのための技術をはじめ、高度の生産技術を持つ日本が存在しているはずである。
 アジアにおける2つの巨人の今後の関係は、世界が最も注目していることの1つである。
 4-3 21世紀の選択肢と展望
 今回の世界金融・経済危機からの教訓は、グローバル化した経済下で、各国が、安定した国民経済を実現しようとするなら、外資依存・多国籍企業依存ではなく、金融に公的な規制を実施し、国民生活を充実させ、対等互恵の関係に立脚した地域経済圏を実現することにある。
 日本と中国の場合、それは、東アジア共同体、さしあたって、ASEAN10カ国プラス3(日本・中国・韓国)といった地域経済圏が構想されよう
 1.対米依存・外需依存を止め、生活充実のための内需拡大へ
 対米輸出とドルへの依存は、自国経済のリスクを高めるので、食糧と基幹エネルギーは自給しつつ、個人消費、街作りなど豊かな生活を実現するための経済活動によって国内需要を拡大する。
 2.市場原理主義への金融規制と公的な国際金融の展開
 すでに各国は互いに協力しながら公的な金融支援に乗り出していることからも、民間金融だけでなく、公的金融の仕組みを共存させることが安定した経済社会を実現するために重要である。
 3.アジア版EU経済連合とアジア版ユーロ通貨構想
 経済機関車のドイツと外交上手なフランスが協力してEUを形成し、比較的安定した経済圏を実現したが、これをアジア経済圏においても実現する。

 本稿の参考文献—山田博文『これならわかる金融経済(第2版)』(大月書店、2007年)


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