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HP New face 3.jpg第2版:99%のための経済学入門.jpg  ようこそ、Netizen越風山房へ。ここは、わたしたち99%の平穏な暮らしをエンジョイするための情報発信サイトです。世界第3位の「経済大国」の豊かさはなぜ実感できないのでしょうか。株価と円・ドル相場・1000兆円の累積国債に振り回される経済から脱出しましょう。We are the 99% !! 1人1人が主権者です。この国のあり方は私たちが決めましょう。

32. 増税・国民負担のない復興財源の調達

1 はじめに

 3.11東日本大震災で被災した方々には、心からお見舞い申し上げます。そして、一日でも早く復興できることを祈っています。
 世紀の転換期のほぼ20年間、経済問題を研究しようとする者にとって、これほどまでに歴史的重大性を持つ多様な経済事象に次々に直面した時期はなかった、といってよい。日本経済も、そして世界経済も、動揺の渦中にあり、言葉の本来の意味での歴史的な転換期にある。
 歴史的な転換期においては、日本や世界の経済社会をどのような方向に転換するのか、その内容が日々問われる時代でもある。本稿では、そのような基本的な視角にたって、東日本大震災の復興財源について検討する。
巨額の復興財源をどこから調達するかは、すでに、小栗崇資「震災復興のための内部留保の活用」(『経済』2011年6月号)や、菅隆徳「震災復 興財源は応能負担でー大企業、大資産家課税の見直しを!」(『税経新報』2011年6月号)、などでも、有益な論点が提起されている。
 こうした論点に加えて、本稿では、100兆円ほどに積み上がっている日本の外貨準備の一部を取り崩して、それを復興財源として使用する論点など、いくつかの復興財源について検討する。

2 東日本大震災の復興財源をめぐって

 「財務省推薦」といわれる野田新政権の誕生は、消費税増税と復興増税がより現実化する局面を迎えている。
東日本大震災からの復興に必要な資金について、政府は、10年間で、総額23兆円と予測した。当初の5年間で、その8割にあたる19兆円を投入する予定である。これは、阪神淡路大震災の2倍の資金である。
 政府は、総額23兆円の復興資金をそれぞれ増税と復興債の発行(借金)によって調達する(図表1参照)。
まず増税については、納税額を一定割合上乗せする定率増税が盛り込まれた(図表2参照)。年間税収が13兆5000億円の所得税なら、1割の定率増税による増収は1兆3500億円となり、これを10年間継続すれば、所得税だけで13兆5000億円の増収が見込まれる。
 そのうえ、2010年代の半ばまでに消費税を10%へ引き上げる予定なので、仮にそれが実現したなら、毎年国庫へは、あらたに10兆円の増収が見込まれる。政府は、増税ラッシュによって復興財源を調達しようとしている。
いうまでもなく所得税も、消費税もすべて勤労者と国民が納税者である。したがって、被災した人々を含めた6500万人の勤労者とその家族、年金生活者などの高齢者たちは、所得税も、消費税もダブルで引き上げられる。
 復興財源を増税に依存することは、大震災に苦しんでいる被災者を初めとした国民負担をさらに強いることになる。
 もう1つの復興財源に予定されている復興債の発行についても、その負担を国民諸階層に負わせようとしている。
政府や日本経団連の主張を代弁しているような伊藤元重氏(東大大学院)は、復興財源国債の発行について、経済誌に以下のように提言(「日本激震!私の提言」)する。
 「提案したいのは、復興債の発行だ。今、国民は日本の再生のために何かしなくてはならないという気持ちを強くしている。その気持ちを1つの方向 に向けるのは政策の力だ。復興債を長期の割引国債とし、10年、15年持ってもらう。国民が復興に参加しているという意識を持つことも重要だ。」(伊藤元 重「国民が日本再生を担う復興債と復興税を財源に」『週刊東洋経済』2011年4月2日、28-29ページ)。
 この提言は、第2次世界大戦において、当時の賀屋興宣蔵相が、「銃後の財政と国民の協力」と題する講演で、国民に軍事国債の購入を呼びかけたこ とを想起させる。国家の非常時に国民の協力を求めた結果は300万人を越える戦死者という惨禍であった。当時は、「国破れて山河あり」であったが、いま は、放射能汚染など「山河敗れて国あり」と指摘するのは、作家の五木寛之氏(『日本経済新聞』2011年8月3日)である。
 国民に復興債の購入や復興税を呼びかける前に、故郷と山紫水明の「山河を破った」責任の所在をはっきりさせ、情報隠蔽・データ改ざん・世論操作などを行ってきた原発利益共同体(図表3参照)の構成員から賠償金や復興財源を求めることが先決のはずであろう。

3 原発事故の賠償金—東電と株主負担

 震災復興財源の中でも、原発事故と放射能被害にたいする賠償金の調達は、別個検討されるべきであろう。
原発事故は、「想定外の天災」ではなかったことが、その後判明した。巨大津波は事前に充分想定された。明治三陸沖地震(明治29年)では、陸地 を這い上がった遡上高38メートルの巨大津波が岩手県宮古市、大船渡市など東北地方の太平洋沿岸を襲っていた。東電自身も、10メートルを超える津波の発 生を予測していた。だが、それにたいする事前の対策を放置した東電の責任は免れようがない。
 今回の原発事故と放射能被害は、直接的には、原発を運転するためのコントロールルームを動かす電気系統の装置が津波で破壊され原発がコントロール不能になることで発生したので、充分想定できた津波対策を怠った結果であり、「想定外の天災」ではなく、「人災」であった。
 したがって、原発事故と放射能被害への賠償金は、まず東電などの原発関係者によって支払われるべきであろう。そこには、以下のような財源が存在している。
 1) まず東電自身の内部留保金や保有資産の吐き出しである。東電の連結内部留保金(親会社と連結子会社の連結剰余金、資本準備金、退職給与引当金などの合計)は、約4兆円に達し、トヨタ、ホンダに次ぐ国内第3位である。
 2) いわゆる「原発埋蔵金」の充当である。「原発埋蔵金」とは、公益財団法人「原子力環境整備促進・資金管理センター」が使用済み核燃料の再処理に備えて積み 立てている資金である。それは、約3兆円と評価される。これ以外にも、原子力関係の独立行政法人などが多く存在しているので、それらの団体—その多くは 「天下り団体」であり、原発利益共同体の構成員でもあるーの財務内容を精査し、積立金があれば、その積立金も賠償金に充当する。
 3) 東電経営の最高意思決定機関は、法的には株主総会であるが、その株主総会に大きな影響力を持つ東電の大株主、とりわけ大手銀行と生命保険会社の責任は免れ ない。三井住友、みずほ、三菱東京UFJの3大メガバンクは、東電はじめ電力各社の取締役などの役員を派遣し、直接経営に関わっている。したがって、これ らの大株主からも、債権放棄などのやり方で賠償金を支払ってもらうことになる。
 東京電力株式会社(2011年3月現在)とは、以下のような巨大独占企業である。
・資本金 9,009億7,500万円
・発行済株式総数 16億701万7,531株
・売上高 5兆1,463億1,800万円
・純資産  1兆2,648億2,200万円
・総資産 14兆2,559億5,800万円
・従業員数 36,733人(2010年12月現在)
・主要株主  三井住友系の日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口)4.07%、第一生命保険 4.07%、日本生命保険 3.90%、三菱東京UFJ系の日本マスタートラスト信託銀行(信託口)3.81%、など(2010年3月現在)。
 このような潤沢な資金を保有する東電は、単独でも賠償金の支払いは可能である、といえよう。加えて、「原発埋蔵金」や株主負担分を追加するなら、10兆円を越える賠償金の支払いであっても、まったく問題なく可能である。
だが、交付国債を2兆円発行し、必要な場合には税金も投入して東電を支援する政府の原子力損害賠償支援機構法は、東電の責任を曖昧にし、国民の 負担で東電を救済するための法律ともいうべき内容であり、それは、かつて不良債権を抱えこんだ銀行を国民負担で救済したことを想起させる。そのうえ、東電 自身も、毎月の電気料金を15%値上げし、標準家庭に毎月1000円ほどの負担を課す計画である。

4 内部留保金による復興債の引受

 自国のGDPの2倍に達する政府長期債務を抱えこみ、これ以上の政府債務の累積は日本国債の信用の失墜に直結する状況の中で、いかにして復興国債を発行するかは、大きな問題でもある。
 だが、幸いなことに、100年に1度の大不況下であるにもかかわらず、旺盛な対外輸出と大規模リストラによって、日本の大企業(資本金10億円 以上、金融・保険を除く5500社)の内部留保金(利益剰余金、資本剰余金、各種引当金など)は、2010年12月現在、262兆円に達し、このうちすぐ にでも換金できる資金でさえも、75兆3000億円に達している(小栗崇資「震災復興のための内部留保の活用」『経済』2011年6月号、54-58ペー ジ)。
 これ以上財政に負担をかけないために、従来の建設国債・赤字国債とは別枠で復興債を発行する必要があるが、企業の莫大な内部留保金の存在はそれを可能にする。
投資に回らないで大手企業の中で眠っている内部留保金で復興債を引き受けることの社会的・経済的効果はおおきい。
 まず、大震災の復興のために資金を供給することで、企業の社会的な責任を全うすることができる。
また、事業規模にすれば数十兆円が、住宅・生活道・各種の公共施設などのインフラ整備のために投入されるので、東日本だけでなく、日本経済に対する経済的な波及効果は従来の公共事業以上に大きくなる。
 というのも、震災復興事業は、大手ゼネコンにだけ恩恵のある大型事業ではなく、生活や営業に直結した事業なので、街の工務店など中小零細企業にも仕事が行き渡り、地域経済の活性化と雇用機会の拡大に貢献するからである。
労働総研の試算によれば、15兆円の復興事業を想定した場合、社会インフラ設備の復旧に8兆円、被災者生活資金等に5兆円、地場産業等の復旧・ 復興資金に2兆 円投入すると、その経済波及効果は、国内生産誘発額で26.5兆円、付加価値誘発額(≒国内総生産)で13.2兆円となる。日本の経済成長率を2.6%以 上押し上げる効果が生まれる(「労働総研緊急提言 、雇用と就業の確保を基軸にした、住民本位の復興」2011年4月、労働運動総合研究所)。
震災復興事業を通じて、大手企業の中で眠っている内部留保金は、有効な投資先を見いだすことになる。

5 予算の組替による復興財源の調達

 長期にわたる給与の引き下げとリストラつづきの国民諸階層への負担と増税を避けつつ復興財源を捻出するには、まず今年度予算の抜本的な組み替えが必要である。
基本的な視角は、被災者と被災地の立場に立ち、いま蓄えのあるところから負担してもらい、かつ不要不急の歳出を削減することである。
 歳入面では、莫大な内部留保金をもつ豊かな日本企業に、これ以上減税する必要はなく、法人税5%減税を見直すだけでなく、莫大な内部留保金に新 たに課税する。法人税率については、来年度以降、現行の30%から、1980年代までの40%台に戻していくことで、さらに増収が見込める。
 いわゆる「金持ち減税」といわれる「証券優遇税制」の廃止、高額所得者への所得税率の引き上げ、などによる増収が見込める。
 不公平税制を改革し、応能負担の原則から復興財源問題について詳しく検討した前掲論文(菅隆徳「震災復興財源は応能負担でー大企業、大資産家課 税の見直しを!」2011年6月号、15-24ページ)は、このような見直しによって、合計21兆2675億円の増収が可能である、と試算している。
 その内訳は、以下の通りである。「①大企業の法人税率引き上げ2兆1360億円 ②証券優遇税制の廃止4043億円 ③高額所得者の所得税率の 引き上げ8546億円 以上について5年間の臨時課税。財源合計で16兆9745億円。④大企業の内部留保課税1回限りで4兆2930億円。合計で21兆 2675億円」(21ページ)。
歳出面では、不要不急予算の歳出削減である。冷戦終了後になおGDP比1%を計上する「防衛費」、なかでも米軍への思いやり予算などの削減、い まなお第2次産業が支配的な時代の国土開発と大型公共事業予算の削減、原発の新規建設・維持関連予算の削減、などによっても、2兆円ほどの震災復興財源が 見込まれる。
 国民の立場、「国民の生活が第一」の本来の立場にたった予算の組み替えは、以上のように、消費税増税や復興増税を回避しても、充分すぎるほどの復興財源が調達できることを示している。
 3.11東日本大震災は、いままでのような予算の枠組みを抜本的に見直し、新しい21世紀の日本の経済社会を実現する予算のあり方をもとめている、といえよう。
 政府は、政策立案に当たって、原発の「安全神話」を捨て、さらに経済の「成長神話」を捨てるスタンスが求められる。経済が成長しても、その果実 は、国民諸階層に広く行き渡るのではなく、一部の大手企業や金融機関と富裕層だけに集中するシステムができあがってしまっている。そのような不公平なシス テムを改革することなく、経済が成長すれば、そのおこぼれで国民も豊かになる、といった「トリクルダウン経済(Trickle-down Economy)」を吹聴することは、「欲しがりません、勝つまでは」といった戦前の国民総動員のキャッチフレーズを繰り返しているにひとしく、この間の 構造改革が豊かさでなく、貧困をもたらした事実によっても、否定されている。

6 「日本は有事の蓄えを使え」—海外からの提案—

 東日本大震災に衝撃を受け、どうしたらこの未曾有の災難から復興できるのか、頭を悩ましているのは、われわれだけではない。海の向こうにいる人々も、援助の手や知恵をめぐらしてくれている。
 大震災からの復興財源には、今こそ、有事に備えて蓄えてきた資金を使うべきである、とコメントしているのは、アメリカの経済学者のラインハート夫妻(Carmen Reihart and Vincent Reinhart)である。
 「復興のために、日本は、有事の蓄えを使うべき(To recover Japan must dip into its rainy day fund)」との記事が掲載されたのは、世界でも著名なイギリス経済紙『フィナンシアル・タイムズ(Financial Times)』(2011年3月25日)であった。ここにいう「有事の蓄え」とは、対外債務の支払や輸入代金の決済金に不足が生じるような事態に備えて、 政府と日銀が保有している外貨である。だが、こんな事態は、対外純資産大国・恒常的な貿易黒字国の日本にはそもそも発生しない。G5でもアメリカ12兆 円、イギリス7兆円、ドイツ6兆円ほどなのに、日本は異常に巨額の100兆円もの外貨を保有している現状にある。
 以下、この新聞記事を抄訳し、紹介しよう。
 「最近の日本の廃墟の現場には、呆然とさせられる。再建のための費用は、まさに巨額であり、数千億ドル(数10兆円)に達するであろう。このような金銭上の重荷を堅実な経済に負担させることは、困難となろう。日本は、もはや堅実な経済ではない。・・・
 日本の財政状況は、まさに惨憺たる状況にある。政府債務は、GDPの226%であり、先進工業国のなかで、飛び抜けて高い。・・・
 それでは、どうすればいいのか?
 幸運なことに、日本は、自由に使える流動性資産という非常時の金庫をもっている。すなわち、日本政府は、何年間も苦心して外貨準備(その殆どは 米国債)を蓄えてきた。現在では、この蓄えは、1兆ドル(約100兆円)を上回り、GDPの20%にわずかに達しないほどである。再建のために、この大金 の一部を現金化することは、理にかなっている。・・・
 日本政府は、保有する外貨準備を売却することをためらっている。もし、外貨準備を蓄えることが、われわれの推測では、強い円への懸念であったな らば、同じ理由は、外貨準備を使うことの懸念となりそうである。しかし、外貨準備の由来がどのようなものであれ、これらの外貨準備は存在しており、日本 は、それらの一部を売却するべきである。政府の評価では、再建のための費用は、3000億ドル(約30兆円)よりも多いが、この金額は、最終的な費用より も少ないことが立証されるであろう。・・・
 日本の弱体化した財政状況や経済不況のリスクを考えれば、流動性のある外貨準備の資産を売却することは、復興を促進する分別あるやり方である。 再建は、潜在的な円高を相殺できるほどに消費を刺激するであろう。債務に依存しないことは、すでにその貯蓄のほとんどを政府に用立てている日本の家計と、 海外の投資家の両方を安心させるであろう。日本は賢くも有事の時のために、外貨準備を蓄えてきた。その有事は、ここにある。日本は、すぐに対応すべきであ る。」。
 イギリスの新聞に載ったアメリカからの日本復興応援団の主張は、現にある100兆円の有事の資産(外貨準備)に手を付け、その10%を現金化し ても、10兆円もの資金が調達できるので、それを復興財源に回すべきである。そうすれば、新たに債務を増大させる国債の発行も、まして臨時の増税の必要も なくなり、国民生活も、日本経済も助かるはずだ、という主張である。
 こうした主張は、国内でも一部展開されている。たとえば、本稿も参考にした日本版『週刊 エコノミスト』(2011年6月14日、毎日新聞社)でも、「米国債を売れ!外貨準備を復興財源に」、との特集が組まれている。

7 国益を背負って米国債を売却せよ

 世界第2位の規模を誇る日本の外貨準備は極端にドル資産に偏倚し、そのほぼ7割は、アメリカ政府の発行する国債である(図表4参照)。
 このようなドルに偏倚した外貨準備は、アメリカ政府の言いなりで、アメリカの財政赤字を補い、また貿易もドル建ての取引が行われ、輸出で受け取るマネーも、輸入に支払うマネーも大半がドルで行われてきたからである。
そのうえ、殆ど効果がないのに、円高是正と称して数兆円規模の円売りドル買いの為替介入を繰り返し、大量に買い込んだドルを再びアメリカ国債に投資しているからである。
 こうした現状は、現在の日本の貿易相手国の主役交代(アメリカ13%から中国20%へ、アジア経済圏全体では50%に達する)を直視していない。もう、中国やアジア各国なくして「貿易立国日本」は存在しえない時代を迎えている。
 アメリカから中国・アジアへの日本の貿易構造の根本的転換に即したわが国外貨準備の通貨別比率の見直しは、為替相場に振り回される不安定な経済から脱出する道であり、かつ21世紀の経済外交のポイントでもある。
したがって、わが国の外貨準備の通貨別比率において、一方でドルの割合を引き下げ、他方でユーロや元などの割合を引き上げる措置が早急に採られるべきである。
 米国債を売却して復興財源を調達せよ、というと、米国通のアナリストから、そうなると円高になる、との反論が出る。
 この反論はまちがっている。そもそもの円高は、構造的なものであって、わが国のドル売り介入が原因ではない。為替介入を行っても、その効果があ るのは、せいぜい3日間ほどで、すぐに円高に戻っている現実を直視すれば、わかることである。とりわけ、最近の円高は、欧米の財政経済事情の悪化にともな い海外の投機筋がドルやユーロを売って円やスイスフランにマネーをシフトしているからである。
 したがって、このような投機マネーを規制しつつ、介入の指示を出す財務省と介入の窓口になっている日銀とで、マーケットの相場を注意深く精査しつつ米国債売りを繰り返し、復興財源を調達しても、極端に円高に振れることはない。
 問われているのは、アメリカとドルの利益を擁護するのでなく、2万人の死者・行方不明者を出し、7万人の被災者が路頭に迷っている現状に目を向け、わが国の国益を背負って、外貨準備を復興財源に回そうとする姿勢があるかどうか、である。

8 脱原発と持続可能な経済社会

 国民負担・原発容認の原子力損害賠償支援機構法が成立した背景には、日本の経済界とアメリカの要請があった、といえよう。
 日本経団連は、原発は引き続き重要である、とし、以下のように提言する。「準国産エネルギーである原子力の果たす役 割は引き続き重要である。安全性確保を大前提に国民の理解を十分に得ながら、引き続き着実に推進していく必要がある。」(日本経団連「エネルギー政策に関 する第1次提言」2011年7月)。
 こうした経済界の原発擁護の姿勢は、原発ビジネスを強化しようとする傘下の企業戦略を反映している。
『日本経済新聞』(2011年4月15日)によれば、東芝は、今回の原発事故の影響で、「2015年度に原子力事業 の売上高を1兆円にする目標が遅れる」ことを懸念しつつも、「15年度までに世界受注を39基」の目標を追求し、今後も「東芝として原発を経営の柱に据え る戦略は変えず」、と明言する。
 東芝が原発ビジネスを推進するのは、世界の原発ビジネスを担ってきたアメリカの原発企業ウェスチングハウス(WH) を買収したからである。『読売新聞』(2006年2月7日)は、「東芝は6日、米原子力大手「ウェスチングハウス(WH)」を買収することで、WHの親会 社の英核燃料会社(BNFL)と最終合意したと発表した。買収額は54億ドル(約6210億円)。・・・ロンドンで会見した東芝の西田厚聡社長は「今回の 買収で東芝は世界的な原子力メーカーになれる」と述べた。」、と報道している。
 世界のエネルギー政策が原発から撤退する中で、原発ビジネスが斜陽産業化し、経営危機に陥りつつあったアメリカの原発企業を引き取った企業が、日本の東芝であった。
 だが、「安全神話」が完全に崩壊した「ふくしま 3.11」以降、世界は、脱原発に大きく舵を切った。
ドイツの「メルケル首相は5月10日、外国人特派員との記者会見で「フクシマが私の考えを変えた。映像が脳裏に焼き 付いて離れない」と何度も「フクシマ」を強調。脱原発を決めた理由として、福島の事故が直接のきっかけだったと明言した。」(『毎日新聞』2011年7月 8日)。
 ドイツは、2022年までに、スイスは、2034年までに、原子力発電から脱却することを閣議決定している。
福島第1原発事故で大気中に放出された放射性物質(セシウム137)は、広島原爆の168倍に相当していた、と原子力安全・保安院は最近になって公表した(『朝日新聞』2011年8月28日)。
 広島・長崎の悲惨な長期にわたる被爆体験をもつわが国は、他国に先駆けて脱原発に踏み切り、持続可能な経済社会のた めに、自然エネルギーへ転換することが求められる。原発関連産業と利益共同体に向かっている莫大な資金を、震災復興と脱原発・自然エネルギー開発にむける ことで明日の日本が見えてくる。

(やまだ・ひろふみ)

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