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経済社会評論集

17. メガバンクの統合再編を読み解く
変貌する金融機関ー銀行・郵貯ー(1)

はじめに

 現代日本の経済社会は、歴史的な大転換期にある、といってよい。戦後日本の金融ビジネスを担ってきた大手銀行21行は、世紀末の金融ビッグバ ン改革を経て、4大グループにまで統合された。さらに今回の三菱東京フィナンシャルグループ(MTFG)とUFJホールディングスとの統合再編で、わずか 3大グループにまで集約され、資産規模では、世界最大の銀行が誕生する。
 経済を身体に例えると、銀行業は、日本経済の心臓部として、経済成長に必要な血液(マネー)を預金として受け入れ、また貸し出しを通じて企業にマネーを 供給し、さらに各種の経済取引の支払い決済を担当することで、円滑な経済活動を支援してきた。だが、銀行業に、近年、地殻変動が起きている。その震源地 は、アメリカである。

誕生した世界最大のメガバンク

 旧三菱財閥に属し、わが国を代表する三菱東京フィナンシャルグループ(MTFG)と、旧三和銀行・東海銀行を母体とし、関西や中京圏に拠点をもつUFJ ホールディングスは、8月12日、全面統合の基本合意書を交わし、世界最大の三菱UFJグループが誕生することになった。
 今回の統合再編は、実質的には、MTFGによるUFJの吸収合併の性格をもつ。では、この統合再編は、当事者間にとって、どのような意味をもっていたのか。
 まず、MTFGにとっては、資産規模の上では、世界のメガバンクのトップにたち、国際金融ビジネスに強い基盤を築く。これによって、MTFGは、アメリ カのシティグループによるMTFGの買収計画を防止できた。国内では、関西・中京圏のビジネスフィールドと高収益分野の中小企業・個人向け金融ビジネスの 基盤を強化できた。
UFJにとっては、ダイエーなど大口融資先の不良債権問題を抱え、自己資本不足によって国際金融ビジネスからの撤退を迫られ、経営危機が進行しつつあったが、今回の統合再編は、こうした問題の解消に大きく足を踏み出せた。
 監督官庁の金融庁にとっても、欧米のメガバンクと競争し、国際金融ビジネスを展開できる日本のメガバンクを誕生させ、また、ペイオフ解禁を控え、問題銀行の経営危機に端を発する金融システム不安を、ある程度解消できた。
利用者と経済社会のニーズは反映されたか
 だが、以上の事情は、銀行の当事者だけに当てはまるものである。実際のところ、今回のメガバンクの統合再編は、金融サービスを利用する肝心の企業や個人のニーズに基づいたものではない。統合再編によって企業や個人には、どのようなメリットがあるのか明らかでない。
 とくに、現代日本経済にとって緊急に取り組むべき課題、すなわち、金融システム不安の再発は防止できたのか、長期化する不況と痛みを伴った構造改革のな かで、職を失った350万人の完全失業者や420万人の若きフリーター達に、新しい雇用機会を提供する金融ビジネスの展開が構想されているのか、また疲弊 し、停滞する中小企業や地域経済にとって、どのような恩恵と活性化の見通しを提供してくれるのか、そのデザインはまったく不明である。
むしろ、現代日本経済の差し迫った課題は無視され、まず統合再編ありき、といった展開であった。銀行業界自身も、この10年間で、その3割に匹敵する16万人もの行員数を削減してきたが、今回の統合再編でも、大幅な人員削減が予定されている。

世界の金融再編成と市場の分割競争

 そもそも、今回のメガバンクの統合再編の目的も、その主要な動機も、金融業界による、金融業界のための統合再編にあった。さらに、国内的な要因に触発されたというよりも、21世紀の国際金融市場の争奪戦を展開する欧米のメガバンクの金融再編成に触発されている。
 その底流を読み解くキーワードは、アメリカを震源地とする金融のグローバル化、情報化、コングロマリット化である。旧ソ連の崩壊、中国の市場経済化によっ て、地球上の市場経済の規模は、人口比で、4倍にまで急拡大した。この新しい巨大市場の分割合戦が始まった。メガバンクの統合再編は、21世紀の国際金融 市場を一握りの巨大金融機関によって分割し、支配する体制整備の一環として展開されてきた。
 各国の国境を越えて経済活動が地球的な規模で行われる時代がやってきた。インターネットをはじめとした情報通信技術(IT)の飛躍的な発展は、従来の経済 活動のあり方を大きく変えることになった。このようなグローバル化と情報化にもっとも適した経済活動は、金融ビジネスである。
 というのも、現代の金融ビジネスは、ニューヨーク、ロンドン、東京、といった世界の金融中心地に張り巡らしたコンピュータのネットワークを駆使し、円・ ドル・ユーロなどの通貨の売買と貸借、世界中の株式や公社債の売買が、24時間、眠ることなく、光の速さで取り引きできる時代になったからである。銀行や 証券会社の20才台の若きディーラーでさえも、各国の通貨や証券を売買することで、一人で1日5000万円の収益をあげたり、逆に損失を出す、といったハ イリスク・ハイリターン型金融ビジネス=アングロアメリカン型ビジネスが世界の流れになってきた。

変貌する銀行業とグローバルトップテン

 こうして銀行は、もはや汗を流して地道に預金を集め、それを貸し出しに向け、経済を活性化させることで、貸出先から利子を得る、といった伝統 的な手間暇のかかる業務から手を引き、コンピュータのネットワークを駆使し、世界中から、一瞬にして、巨額のマネーを稼ぎ出そうとするようになった。つま り、モノづくり経済への金融支援から、マネーゲームと投機のハイリスク・ハイリターン型金融ビジネスが支配的となる。
 そのためには、地球上にコンピュータのネットワークを構築し、管理する巨額の情報通信投資が不可欠となる。年間1000~2000億円に達する情報通信投 資のためには、銀行本体の規模を巨大にしていくことが求められ、世界中の銀行で、メガバンクへの統合再編が繰り返し行われるようになった。
 取り扱う業務の内容も、従来は、金融システムの安全性を確保するために、銀行業務、証券業務、保険業務は、それぞれ別の専門的金融機関で営まれ、業務の兼 営は認められなかった。だが、アメリカを震源地にする金融ビッグバン改革は、単一の金融持株会社で、あらゆる金融業務を営めるように法律を変更し、また世 界各国がアメリカと共通の金融システムを立ち上げるように働きかけてきた。
 そして現在では、日本でもなじみのあるアメリカのシティグループ、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、UBS(スイス)、HSBC(イギ リス)、ドイツ銀行(ドイツ)、などに代表されるグローバルトップテンといわれるメガバンクが、国内外のあらゆる金融業務を一手に展開する金融コングロマ リットとして登場し、内外の金融市場を独占するようになった。日本の3大金融グループも、金融ビッグバン改革を受け入れ、このグローバルトップテン入りを めざし、統合再編を繰り返してきた。

大きいことは良いことかー見えてきたLCBOの限界ー

 統合再編を繰り返すことで、銀行の資産規模は、雪だるま式に膨張してきた。今回の三菱東京とUFJを合わせた資産規模は、189兆円であり、みずほ、シティグループ、UBS、JPモルガン・チェースなどを追い抜いて、世界最大となった。
 だが、先行するアメリカの事例では、統合後の銀行の資産規模が100億ドル(ほぼ1兆円)程度の小規模な銀行なら、規模の経済が働き、収益は増大するが、それ以上の資産規模になると、コストが増大し、収益はむしろ低下する場合が多かった。
 さらに、銀行も、証券も、保険も営む巨大金融コングロマリットは、大規模複雑銀行組織(LCBO)となり、リスクの存在がどこにあるかよく分からず、金融 システム不安は解消されない。また、連邦預金保険公社(FDIC)といったアメリカの規制当局は、「あまりに大きすぎて、複雑で、監視の目が及ばない」、 といった理由から、その存在を問題視するようになってきている。
 というのも、大きくて、複雑すぎ、監視の目が届かないことは、不正が発生しやすくなるからである。アメリカの巨大企業のエンロン、ワールドコム事件は、シ ティグループとJPモルガン・チェースが、利益を水増しし、負債を隠蔽する会計操作をやって、200万ドルもの手数料を得ていたことが、その後の議会調査 で発覚している。
このようなアメリカの事例は、明日の日本のメガバンクの先行事例でもあろう。いや、監視や規制については先進国で最も遅れているわが国では、同種の事件が、もう発生しているのかも知れない。
 いまわが国に求められている銀行業のあり方とは、金融システムの安定のため、銀行の機能を分化させること、そして、長期不況から回復するためにも、地域経 済や中小企業向けのきめの細かい金融サービスを専門的にできる銀行の体制を充実させること、国民の主要な貯蓄手段になっている預貯金を保護すること、など であるにちがいない。

全国保険医新聞(2004年9月25日号)

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