23. 現代日本の国債管理と増大するリスク
~公債などの見直し~日本租税理論学会 第18回大会報告要旨
戦後の日本経済は,資本の高度蓄積を最優先し、不況対策や景気刺激策など、各種の大規模の経済政策の財源調達 のために、国債が増発されてきた。民間部門の国債消化資金の不足期であっても、日銀信用を先行的に膨張させ、金融緩和基調を造出することで、国債消化基盤 を拡充し、しかる後に国債を発行する、といった日銀信用に依存した国債増発メカニズムが作動していた。
21世紀初頭において、累積した国債残高(内国債のみ06.6)は,670兆円の天文学的な金額に達し、対GDP比でも先進国中最大最悪の事態が訪れて いる。その結果、借金の支払いのためさらに借金を繰り返す悪循環に陥り,政府債務のリスクは,国民諸階層に転嫁され,増税,各種の負担増などを招いてい る。
他方において,累積国債は,政府の供給する安全な投資物件・金融商品であり,現代日本の資本蓄積にとって、さまざまなビジネス・チャンスを提供し,国債売買市場(9076兆円、05年度)は,わが国を代表する金融市場となった。
ローリスクで,発行ロットも大きく,流動性も高い国債は,グローバル化し,情報化し,金融化した経済のもとでの現代的な資本蓄積にとって,もっとも適合的 な投資物件にほかならず,銀行・証券会社などの金融産業だけでなく,企業,団体など、内外の大口投資家にも,利殖の舞台を提供してきたからである。
だが,財政資金の調達が,民間の金融・証券市場に依存すると,財政運営は,乱高下する市場の動向にふりまわされる。予算編成も、市場を独占する大口投資 家や資本の利害を反映し,資本蓄積を優先する内容に組み替えられる。国債償還財源の枯渇化は,投資家の利益を損なうので,消費税など、さまざまな新規財源 が追求され,民営化も推進され、民営化株式の売却代金が国債償還財源に充用される。民営化株式の組成は,国家相手の新しい証券ビジネスのチャンスをもたら した。
こうして,財政資金調達が相場の乱高下する金融・証券市場に依存する割合が高まれば高まるほど,資金調達と財政運営は不安定化する。そのリスクは,最終的には、小口投資家や国民諸階層に転嫁される。
日本租税理論学会 第18回大会報告レジュメ
1.膨張する国債発行残高と国債売買市場
1-1 GDPを超過する国債発行残高
1-2 1京円市場に迫る国債売買高
1-3 金融ビッグバンと国債証券ビジネスの育成・拡大
2.量的金融緩和政策と日銀の国債消化機関化
2-1 国債発行額の4-5割を日銀の買いオペで吸収
2-2 超金融緩和政策と銀行の国債投資・資本蓄積
2-3 日銀信用と郵貯資金に依存した国債管理の歴史
3.増大する累積国債のリスク
3-1 国債償還財源の枯渇化と民営化株式の売却
3-2 株価と債券相場に牽制される財政運営
3-3 国債価格暴落(金利暴騰)と経済危機の誘発
参考文献:山田博文・「現代経済システムと国債の累積~現代日本の資本蓄積と国家の経済活動によせて~」2006年10月 『季刊・経済理論』経済理論学会、第43巻第3号、・「日銀信用に依存した国債市場と増大するリスク~国債に抱えられた現代日本経済の構造と動態~」 2004年10月 『企業研究』中央大学企業研究所 第5号(通巻第27号)、・「現代日本経済と膨張する日銀信用~不況対策・決算対策・株価対策~」 2005年5月 『商学論纂』中央大学商学研究会 第46巻第4号・『国債管理の構造分析』日本経済評論社、1990年